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歓びのトスカーナ (La pazza gioia)

ネタばれあり。

私のお気に入り度 ★★★★☆ (82点)

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【あらすじ】 虚言癖でおしゃべりな自称・伯爵夫人Beatrice(Valeria Bruni Tedeschi)と、自分の殻に閉じこもった全身タトゥーの女Donatella(Micaela Ramazzotti)。社会復帰を助けるトスカーナの診療施設から脱走を図った2人は、破天荒な逃避行を繰り広げるなか、いつしか掛け替えのない絆で結ばれていく。2017年David Donatello賞で、作品賞や監督賞や主演女優賞(Valeria Bruni Tedeschi)など5部門受賞。(作品の詳細はこちら


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タイトルの語感から、弾けるような喜びに満ちた、軽いコメディタッチのドラマを想像していた。確かにBeatriceとDonatellaの逃避行は、Thelma & Louise (1991) を彷彿させるような珍道中だが、2人はどこでどう間違ったのか?人生に躓(つまづ)いて傷つき、心の奥に深い怒りや悲しみや後悔を抱えて生きている。

彼女たちの性格はコインの裏と表のように正反対で、事件が起きるたびに、それぞれのリアクションが面白いほど異なる。Beatriceが光なら、Donatellaは闇。自称・伯爵夫人のBeatriceは、出鱈目な話を間断なくすることで現実から目をそむけ、自分を保っている。Donatellaは付き合った男に捨てられたばかりか、2人の間にできた子どもを認知してもらえず、その子も養子にとられてしまう。心の中は生々しい傷だらけで、その痛みに1人でじっと耐える。殻に閉じこもることで、崖っぷちから転落しないように、なんとか踏みとどまっている。


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この2人を演じたValeriaとMicaelaが、まぁ、実に素晴らしかった。舞台劇のような幾分大袈裟な演技も、Valeriaにかかると、俄然、真実味を帯びてきて、「ああ、こんな人いる」と思わせ、説得力があった。テンションが高く、口を開けば嘘がよどみなく出てくる。あそこまで流暢に次から次へと嘘が出てくると、もうあっぱれ!一緒にいたら非常に疲れるタイプだが、どこか愛嬌があって憎みきれない。一方Micaelaはげっそり痩せて頬がおちくぼみ、全身のタトゥーが嫌でも人目をひく。絶望に沈んだまなざしが痛々しくやるせない。すっかり笑いを忘れた彼女に、施設の先輩であるBeatriceが、あれこれ世話を焼こうとする。Donatellaが気になる存在なのだ。

けれどまるでピエロのように面白おかしく、時には狂ったように陽気な振る舞いで、刹那的に生きるBeatriceに、Donatellaは戸惑いを隠せない。嘘の話でどんなに誤魔化しても、現実は変わらないことを知っているから。厳しい現実を味わったDonatellaは、幸せな時間のあとに襲って来る、あの何とも言いようのない寂しさや重苦しさが、もはや恐怖でしかない。対照的な2人の性格や生き方に、「それはそうだけど…」と言いつつも、そのどこかに自分の姿が重なるような、何かしら共感できる部分があり、知らないうちに引き込まれる。


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背負っている人生は違うが、束の間の逃避行で、何かが少し変わった。現状は、依然、変わらない。しかし2人の間に相手を気遣う愛情が芽生え、傷ついた心を癒してくれる。心を通わせる相手がそばにいて、気持ちがふわっと軽くなる支えがあるというのは、愛に飢えた2人にとって最高の癒しに違いない。養子に出された子どもに再会し、辛い過去など忘れて海で戯れる、こんな束の間の幸せも、私たちの日常に思いがけなく訪れる。人生、悪いこともあれば、いいこともあるよ。


 
by amore_spacey | 2017-04-26 01:21 | - Italian film | Comments(0)
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