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それでもボクはやってない

ネタばれあり。

私のお気に入り度 ★★★★☆(82点)

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「十人の真犯人を逃すとも一人の無辜(むこ)を罰するなかれ」という冒頭の言葉から、イタリアのどの裁判所にも大きく掲げられている「法は万人に平等」を思い出す。何か白々しく空虚なものが漂う。現実はどうなのか?

周防監督が、ある痴漢冤罪事件を報じる記事に関心を持ち取材を進める過程で、現在の刑事裁判のあり方そのものに疑問を抱き、その問題点に真正面から向き合った異色の社会派ドラマ。フリーターの金子徹平は、朝の通勤通学ラッシュに大混雑する電車で就職面接に向かう際、女子中学生に痴漢と間違えられてしまう。無実の罪を認めて示談に持ち込むという妥協をあえて拒み、あくまで濡れ衣を晴らそうとした徹平は、逮捕されたあげく起訴される。そして徹平と彼の支援者たちの長くて先の見えない戦いが始まる。



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感動や憤りとは違う、非情に強い衝撃を受けた。これが偽らざる感想である。多発する痴漢事件に飽き飽きしている刑事、罪を認めて罰金を払ったほうがラクだと勧める弁護士、痴漢の被害に何度も遭ったため頑なになっている女の子、何百件もの事件を抱えている裁判官…、彼らはけっして「明確な悪意」を抱いているわけではない普通の人々なのである。それらが目には見えないわずかな歪みを描き始め、その先に待ち受けるのは…。



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映画の持つその性格上、多少の脚色は否めないが、これを作るのに2年間に及ぶ徹底取材を行ったという監督は、これでもか?これでもか?と我々に衝撃を与え続けるのだ。明日はわが身かもしれないリアリティ。家族や隣人や友人やわが子…が同じような運命を辿るかもしれない。漠然とした恐れではなく、このやるせなさや絶望をどこへぶつけたらいいのか?社会の中でこれだけは確固たる正義であるはずの司法の非情さゆえに、観終ったあとの脱力感は言葉では言い尽くせない。金子徹平にできることは、裁判で闘うことの空しさを実感しながらも、裁判で訴え続けていくことだけなのだ。「ばかやろう!何が真実だ、何が人間の尊厳だ!ウソと金で塗り固められた世の中じゃないか!」あの法廷で大声で叫ぶことができたら、どんなにか胸のつかえが下りたことだろう。しかし…、「控訴します」としか言えないのだ。



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小日向文世、やってくれましたわね。『うどん』で気弱な養子婿を演じたかと思えば、この作品ではのらりくらり、飄々としたたぬきのようなキャラクター。冷酷非情なこのメリハリが、彼の一体どこに潜んでいたのだろう。侮れない。秀逸でした。公判検事の尾美としのりもうってつけ。「おい、大丈夫なのか?ちゃんとメシ食ってるか?」近くにいたら思わず声をかけたくなるような加瀬亮くんも適役&好演だった。


製作国:Japan
初公開年:2007年
監督:周防正行
キャスト:加瀬亮, 瀬戸朝香, 山本耕史, もたいまさこ, 尾美としのり, 竹中直人, 小日向文世, 高橋長英, 役所広司 ...
by amore_spacey | 2008-05-10 00:05 | - Japanese film | Comments(4)
Commented by 睡蓮 at 2008-05-12 18:08 x
エミリアさんの書く映画のレビュー、文章がお上手で評論家のプロが書いたみたい!
うらやましいです。私は「すごい」とか「素晴らしい」とかしか書けなくて(笑)。
これは見ようと思いつつまだ未見です。
主人公のモデルになった男性のインタビューはテレビで見ました。
彼は運よくそれも、死に物狂いで戦い続けて自分の疑いを晴らすことができましたが、それでも職を失ったり、人生が180度変わってしまったわけですよね。
冤罪って考えただけでも恐ろしいです。
イタリアでも痴漢ってやっぱりありますか?
実はもたいさん大好きでーす。
エミリアさんには理解できないかもしれませんが(笑)、前から個性的な女優さんだなぁと思って気にしてて、かもめ食堂でやられましたー。
Commented by amore_spacey at 2008-05-14 00:43
♡ 睡蓮さんへ。
はい、ワタクシ、実は映画評論家です(爆)

この作品を観てからすぐに睡蓮さんのブログに行って、コメントを書き
たかったのですが、一時閉店?のようだったので何も書かないで戻って
きました。
司法の世界を目指している睡蓮さんだから、きっとこの作品もご覧になった
だろうと。それでどんな感想を持ったのか、とても興味深くてそれを聞きたい
なぁと思ったんです。時間があったらぜひぜひぜひぜひご覧下さいね。
レビューを聞かせて下さい。

ごめんなさいませ~、もたいさんのファンでしたかーーー(滝汗)
Commented by 睡蓮 at 2008-05-14 02:51 x
せっかく来ていただいたのにすみません。
閉店は、本試験を受けていたからなんです。
また再開しました。
ところが試験の結果が思わしくなく、司法の世界から遠のく覚悟で今おります。
また報告させてもらうつもりでいるのですが・・・。
私は以前から冤罪事件に心を痛めていて、知り合いが事件の第一発見者で、社会的にも大きな反響だったネパール人による殺人事件が昔あって、ルポなどを読んで個人的に冤罪だと信じている事件です。
彼は今も家族にいるネパールには帰れず無期懲役の判決を受けて今再審請求中です(最高裁まで行って確定した裁判でも、例外的に再度審査の請求ができる)。
まあ、このほかにも、死刑判決が確定していても、冤罪の可能性が高い(元裁判官も言っている)事件もあるんですよ。
見たらまたつたないレビューですが、書きますね。
Commented by amore_spacey at 2008-05-15 23:44
♡ 睡蓮さんへ。
あのあとさっそく伺いましたら、開店しておりました。
報告読ませて頂きましたが、どうコメントをつけてよいのやらまとまらず
そのままスゴスゴと退散いたしました。司法の世界から別の道へ
方向転換?になるのか、やはり納得がいくまでやるのか、大いに迷って
悩んでから決めても遅くはありません。人生に無駄になるようなものは1つも
ないのですから。

冤罪事件をよく耳にするものの、事件の発生~冤罪確定までどのような
経過をとるのか、この作品でよく分かりました。ひとごとではないなぁと
誰もが思ったことでしょう。それが人々の関心を高めたのではないでしょうか?
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