歩いても歩いても

私のお気に入り度 ★★★★☆(92点)

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ある夏の終わり。失業中の良多(阿部寛)は妻(夏川結衣)と息子を連れて兄の命日に実家を訪れた。開業医だった父(原田芳雄)と昔から反りの合わない良多は現在失業中ということもあり、気が重い帰郷である。姉・ちなみ(YOU)の家族と共に楽しく語らいながら、母(樹木希林)は料理の準備に余念がない。その一方で相変わらず家長として医師としての威厳にこだわる父。台所、食卓、墓参り、海への散歩。どこにでもある日常の風景。息子を亡くした傷の深さ、兄へのコンプレックス、受け入れ難い親の老いなど、何気ない会話からそれぞれの複雑な感情があぶり出されていく。誰もが自分自身と重ね合わせずにはいられない作品であろう。


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真っ暗なスクリーンに、ゴシゴシ音だけがきこえてくる。人参と大根を調理する手のアップに続いて、母娘らしき2人の会話が始まる。冒頭のこのシーンに目が釘付けになった。昔ながらの台所に並んで、母は包丁で人参を娘は皮剥き器で大根を剥いている。小気味のよい手さばきでミョウガを薄く切っていく。茹でた枝豆に塩を振り、ざるを上下させながら塩を満遍なく全体に行き渡らせる。鞘から出した大量の枝豆とミョウガを寿司飯に入れてさっくり混ぜ合わせれば、枝豆とみょうがの混ぜ寿司が出来上がる。母の十八番料理は、大粒のとうもろこしを使ったコーンの掻き揚げ。「早くおあがり。揚げ立てがおいしいんだからね。」 そして冷やしたスイカやお持たせのシュークリームや店屋物の鰻重。食卓の風景は何度見てもいい。

大事件が起こるわけではない。激しいアクションや感極まる幸せや悲しみなどもない。海の見える坂の町のごく平凡な住宅街に暮す、平凡な人々のある夏の一日を淡々と描く。是枝監督は役者の一瞬の心の動きをも取り逃がさないかのように、役者の動きをかなり長いスタンスで撮影している。使い込まれた昭和の家の中の何気ないショットや、役者たちのセリフや表情や仕草が心の奥深くにじわっと沁みて、懐かしく面映くぎこちない感情が目覚め、家族や人のことをとてもいとおしく思えるのである。



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反りが合わないから父と2人だけになると、良多はいっそう間が悪く居心地が悪い。いったい何を話してよいのやら。気を揉んだ挙句の果てに出て来た言葉にうろたえ、さらに気まずくなって自己嫌悪する。同じような光景が私の子どもの頃にもあった。原田芳雄が演ずる父は、わが父そのもの。亭主関白で家長としての威厳に拘る父の存在は疎ましかった。可愛がってくれているのが分かるから、尚更その狭間にいた私は鬱陶しかったのだ。彼が上機嫌な時には楽しいが、一旦雲行きが怪しくなると、彼の一喝で盛り上がったその場の雰囲気が一気にしぼんでしまう。嵐が来る前にそれぞれの部屋に逃げ込む。

そんな気持ちを今でも引きずっているから、父と電話で話すのは苦手で苦痛だ。こちらから電話をかける時には、「母が出ますように」と真剣に心の中で祈ってしまう私は、まだまだ大人になりきれない。しかし父の声を聞くと母が電話口に出た時より妙にほっとするのだから、人の気持ちは一筋縄ではいかない厄介なものだ。良多がつぶやく「いつもちょっとだけ間に合わない」、それは自分の人生や年老いた両親への親孝行や子育てにおいてもいえること。きっちり帳尻のあう人生は少なく、概ね人々はそうした小さな後悔を背負いながら生きているのだと思う。



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樹木希林が巧い、巧すぎます!家に迷い込んだ蝶を追うシーンは鳥肌モノでした。『東京タワー ~オカンとボクと、時々、オトン~』での母親役を超える巧さでありました。ルックスだけで?勝負していた若い頃に比べると、阿部寛は独特のオーラをまとい確実に味のある&存在感のある役者になってきて、すごくいいのだわぁ(^^) いしだあゆみの「ブルー・ライト・ヨコハマ」は、リアルタイムで覚えてますョ。

製作国:Japan
初公開年:2007年
監督:是枝裕和
キャスト:阿部寛, 夏川結衣, YOU, 高橋和也, 田中祥平, 加藤治子, 寺島進, 樹木希林, 原田芳雄 ...
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by amore_spacey | 2009-02-08 18:25 | - Japanese film | Comments(2)
Commented by 絵本の虫 at 2009-02-09 11:47 x
これ、とっても気になってた映画なの。ますます観たくなってきた!
YOUは誰だか私は知らないけれど、観るときは注目してみますね(笑)
Commented by amore_spacey at 2009-02-14 23:30
☆ 絵本の虫さんへ。
ぜひご覧になってみてね。あんな偏屈で頑固なオヤジはもう少なくなって
きました。そういう意味では私の父も希少価値?博物館入り?^^
繰り返し観ていますョ。
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