世情 (La Tenerezza)

私のお気に入り度 ★★★☆☆ (76点)

ネタばれあり!

e0059574_1132240.jpg
【あらすじ】 心臓発作を起こして入院していた77 歳の元弁護士Lorenzo(Renato Carpentieri)は、退院後ナポリにある自分のアパートに戻る。自宅のある最上階に上っていくと、Michela(Micaela Ramazzotti)が階段に座っていた。向かいに住む彼女は鍵を忘れて出てしまい、アパートに入れないという。これがきっかけでMichelaや彼女の夫Fabio(Elio Germano)や2人の子どもたちと交流を持つようになった。Lorenzoには娘Elena(Giovanna Mezzogiorno)と息子Saverio(Arturo Muselli)がいるが、妻を亡くした頃から疎遠になり、彼は1人このアパートで暮らしている。(作品の詳細はこちら


e0059574_113349.jpg
e0059574_1134643.jpg
e0059574_1142693.jpg
タイトルを直訳すると、「優しさ」「ふんわりした柔らかさ」「ほろりとさせる様子」。だからナポリに暮らす人々の、心の交流を描いた心温まる作品だと思った。が、元弁護士Lorenzoと隣人家族の、ぎこちないけれど微笑ましい交流が始まった矢先に、全く予期せぬ悲劇が起きて、「えーーっ?」と同時に気持ちも急降下↓↓↓ 心の準備が全く出来ていませんでしたから。Elio Germanoの存在が、不穏で陰鬱なのだだ。彼が演じる役といったら、いつキレる分からない危うさを孕んだ不安定なキャラが多く、皮肉なことに上手すぎるのが難点で、何とも嫌ァな気持ちになる。でもでも好きな役者ですから、頑張って最後まで観ました。


e0059574_1144158.jpg
e0059574_1145613.jpg
e0059574_1151067.jpg
Lorenzoは現役で働いていた頃、非常に有能な弁護士ではあったが、あまり大きな声では言えないような、相当汚れた仕事もしてきた。肩書きを利用したあくどい方法で、生命保険などを騙し取る片棒を担いだこともあった。だから今でも評判が全く宜しくない。私生活でもダメ夫、ダメ父親。血の通った人間というぬくもりが感じられません。

彼には愛情が欠落していたのかもしれない。愛情などという面映いものを嫌っていた、もしくは他人に無関心だった、または単に不器用な人だったのかもしれない。とにかく人に囲まれていながら、常に孤独な人だったに違いない。そんな彼の凍りついた心をゆっくりとかしていったのが、Michelaだ。彼自身が戸惑ってしまうほど、抑えきれない衝動に突き動かされ、彼女の父親と偽ってまで病院に通い、彼女の傍らに座って、ひたすら語りかける。天涯孤独の彼女に、Lorenzoは自分を重ねたのだろうか。自分の分身のような彼女に、生きていて欲しいと心の底から願った。たぶん家族にも愛人にも、誰にも抱いたことのない熱い感情を、生まれて初めて全身で味わう。

人間味がないと言えば、Lorenzoの愛人や息子のSaverio、それからFabioのマンマの、余りにもそっけなく人生を割り切っている姿に、ある種の潔さを感じたが、共感はできませんでした。唯一娘のElenaが救いになっている。互いの誤解が解けたあと、心のわだかまりも消えていくに違いない。そうあってほしいと願う。


e0059574_1152046.jpg
これで人を傷つけてきた過去のすべてが帳消しになるわけではないけれども、彼にとっては精一杯の懺悔であり、今まで妻や子どもたちのことを省みなかったことへの、彼なりの罪滅ぼしでもあったのだと思う。このドラマの舞台となったのが、カオスの町ナポリ。人間臭く生活感が溢れる、猥雑としたナポリの路地裏である。スプレーの落書きで埋め尽くされた壁や、薄暗くて細い路地。どこから突っ込んでくるか分からないスクーターやバイクの群れ、信号無視、洗濯物がひらめくスペイン地区、たくさんの教会…。あの町の雰囲気にピッタリの作品だ。


[PR]
# by amore_spacey | 2018-04-17 01:22 | - Italian film | Comments(0)

終着駅 (Stazione Termini)

私のお気に入り度 ★★★☆☆ (70点)

e0059574_235549.jpg
【あらすじ】 アメリカ人の若い人妻Mary(Jennifer Jones)は、妹を訪ねてローマにやって来た。数日間町の見物をしたが、そこで英語教師のGiovanni(Montgomery Clift)と知り合い、激しい恋に落ちる。しかし夫や娘のことを思い、アメリカに帰国することに決めたMaryは、引き裂かれるような思いでテルミニ駅に来た。そこへGiovanniが駆けつけるが、慌しく哀切に満ちた別れは、刻一刻と迫ってくるのだった。(作品の詳細はこちら


e0059574_24622.jpg
e0059574_242686.jpg
子どもの頃、たしか親と一緒に観たような気がする。テルミニ駅で繰り広げられる悲恋物語に、両親は深く感動していたけれど、陰気で辛気臭いMontgomeryに私はうんざりしてしまった。これを観るのは2度目だが、どうしても彼が苦手。だから彼のやることなすこと全てが、癇に障る。Mary から紹介された甥っ子Paulを、彼はにこりともせず無愛想な顔で見る。甥っ子のほうがよほど大人で紳士だ。入線してくる電車の前を横切る暴挙や、女性の頬を引っ叩くのは、全くありえない行為。短期で粘着気質な男だ。重箱の隅っこ的だけど、動き始めた列車から飛び降りて転んだ彼を心配して、助け起こしてくれた男性に、お礼すら言わないなんて、つくづく残念すぎる。こんな男に恋するなんて、異国の旅という非日常の魔力は捉えどころがない。


e0059574_244583.jpg
e0059574_25367.jpg
と、初っ端から言いたい放題ですが、若妻を演じたJenniferはとても魅力的で、あちこち揺れ動く女心を切なく見せてくれました。でもこの2人の恋に落ちる経緯が描かれていないので、ほとんど感情移入ができず(不倫相手がMontgomeryだから尚更)、「うーん、私だったら頬を殴られた時点で、ゲーム終了ですが…」と気持ちが冷める。アメリカに帰国するのに、手ぶらでテルミニ駅に来ちゃっているMaryも、何だかよく分かりません。


e0059574_25566.jpg
e0059574_261345.jpg
感情移入できない2人の悲恋物語より、テルミニ駅を行き交う人々やそこで働く人々のほうが、何倍も楽しく活気に溢れて面白かった。いつも公衆電話の前にいる、オレンジを持った胡散臭いおやじ(Paolo Stoppa)、兵士たち、恰幅のいい聖職者たち、家族連れ、気分が悪くなった妊婦やその夫、切符売り場や電報局の職員、荷物のカートを押す職員、駅の公安委員や警官や警察署長。何かあるとわらわら集まってくる人々。バールや食堂のカメリエレ、構内アナウンス、ガヤガヤした雰囲気。警察に向かう2人を、野次馬根性丸出しでジロジロ見る人々。当時の大きなお札や、今と少しも変わらないテルミニ駅の外観。旅は日常生活を忘れさせてくれる。旅の出発・終着となる駅や空港は、人の心をそぞろにさせる。また旅に出たくなってきました。


[PR]
# by amore_spacey | 2018-04-14 02:16 | - Italian film | Comments(0)

The Place

私のお気に入り度 ★★★☆☆ (78点)

ネタばれあり!

e0059574_173262.jpg
【あらすじ】 バール『The Place』の一番奥の席、いつも同じこの席に、毎日どの時間に行っても、1人の男(Valerio Mastandrea)が座っている。テーブルにはぎっしり書き込まれた、黒い革の分厚い手帳が1つ。そこで食事をしたり珈琲で一服したりする彼のもとには、何人ものクライアントが入れ替わり立ち代わりやって来る。男は彼らの願いを聞き、それを叶える条件として、それぞれに特異な任務を与える。はたして彼らは、任務を遂行できるのだろうか?男が任務を与える理由とは?アメリカのテレビドラマ「The Booth at the End」にインスパイアされ映画化。(作品の詳細はこちら


e0059574_174516.jpg
e0059574_18130.jpg
The Placeの赤いネオン。間もなくそれがバールだと分かる。カメラはバールの中へ、そして一番奥の一角に向かう。映画が終わるまで、カメラはそこに固定されたまま。だから舞台劇に近い。そこで1人の男が誰かと、向き合って話をしている。2人がどんな関係にあるのか分からない。次のシーンでは、男が別の女性と話している。というより、女性が顔を歪めながら、何かを必死に訴えるのをひとしきり聞いている。そして男はおもむろに分厚い手帳を手にとってパラパラ頁をめくり、何かを書きつけたあと、諭すようなしかし確固とした口調で女性に言葉をかける。


e0059574_1918100.jpg
e0059574_1104121.jpg
そんなシーンが幾つも続くと、この男の存在が気になり始める。セラピスト?精神科医?胡散臭い宗教の勧誘?スピリチュアル系?人間の好奇心を刺激する、謎めいた男に扮するValerio Mastandreaが、絶妙で上手い。演じるというより、役者ではない素顔の彼がふらっとバールに来て、そこに座っているような自然さ。物憂げで気だるい所作や、苦渋に打ちひしがれた張りのない表情も、シナリオに沿って演じているのではなく、その日の様々な出来事が彼をそうさせているようだ。彼は善良なのか、邪悪なのか?そんなことをつらつら考えているうちに、気がついたら、バールの片隅に作り上げられた男の小さな世界に、引きずり込まれていた、という素晴らしい展開。さすがPaolo Genovese監督だ。


e0059574_181383.jpg
e0059574_183497.jpg
瀕死の子どもを救いたい父親に、「人を殺しなさい」。神の声が聞こえなくなった修道女に、「妊娠しなさい」。アルツハイマーの夫を救いたい高齢の妻に、「バールに爆弾を仕掛けなさい」。視力を取り戻したい目の見えない青年に、「女性を強姦しなさい」。美しい容姿になりたい若い女性に、「強盗をしなさい」 …。男がそれぞれのクライアントに与える任務は、どれもこれも犯罪ばかり。絶望の淵に立つ人々が、自分のエゴのために、いけないと知りつつ犯罪に手を染めるのか、いやそれは幾らなんでも人間としてダメだと思いとどまるのか?エゴと願いを天秤にかける。究極の選択を迫られた時、人間性が深く試され、その人の本性が明らかになる。

クライアントたちはバールの男のところに何度も戻ってきては、任務を完遂させるための進行状況や、気持ちの変化を語っていく。カメラはバール内部しか映し出さないから、私たち視聴者は彼らの話や表情を手がかりに、背景にあるドラマや、映像として登場しない彼らの暮らしぶりや人間関係や心情など、様々なことを想像しつつ、作品の展開をそっと見守る。


e0059574_19496.jpg
ところで男はこのバールにずっと居るが、お風呂はどうしている?寝る場所はどこ?着替えは?髭は剃らないの?いやいや、閉店後の無人バールに居ちゃマズいでしょう?家族は?などなど突っ込み所も満載ですが、それはさておき、人の話ばかり聞いているけれど、それじゃこの男は現状に満足しているのか?という疑問がふっと湧いて来る。大丈夫、このバールで働くAngela(Sabrina Ferilli)が、とびっきりの笑顔とある方法で、この男を癒してくれるんです。それは映画を観てのお楽しみ。


[PR]
# by amore_spacey | 2018-04-11 01:11 | - Italian film | Comments(0)

禁じられた遊び (Jeux interdits)

私のお気に入り度 ★★★★☆ (82点)

e0059574_3252857.jpg
【あらすじ】 1940年6月、南仏の田舎。ドイツ軍の空爆により両親を目の前で失い、死んだ小犬を抱いたままひとりぼっちになってしまった5歳の少女Paulette(Brigitte Fossey)は、牛を追って来た農家の少年Michel(Georges Poujouly)と出会い、彼の家に連れていってもらう。Pauletteのために死んだ子犬の墓を作るMichelから、死んだものはこうやって葬る事を教わったPauletteはMichelといっしょに次々とお墓造りをしていった。(作品の詳細はこちら


e0059574_3255527.jpg
e0059574_32540100.jpg
うわああ、なんて可愛いんだろう。Pauletteが可愛いらしくて、やっぱり何回も観てしまう。彼女の何気ない表情やまなざし、ちょっとした仕草や動きが、愛くるしくてたまらない。ママとお揃いのワンピースに、ママがやってくれた髪の編み込み…。だけどそのママもパパも死んでしまった。可愛がっていた犬も。あの犬を無造作に川に放り投げたおばちゃん、一生許さないわよ!

あれだけたくさんのお墓を作ったのは、死んだ愛犬が寂しい思いをしないようにという優しい気持ちから。十字架だって、最初はその辺の枝を使った手作りだった。でも墓地にあった十字架のほうがもっと綺麗で、欲しくなってしまった。動物のお墓にそれを立てたら立派に見えるし、きっと死んだ動物たちも喜んでくれる。きっかけは軽い気持ち。神や祈りや死が分からない子どもにとって、十字架を集めるのは、綺麗な貝殻やキラキラした石を集めるようなものだ。


e0059574_3261315.jpg
e0059574_3262887.jpg
首に名札をぶら下げたPauletteが、「Micheeel!Micheeel!」と呼びながら走り出すラストシーンで、抑えていたものが一気にこみ上げ、涙腺崩壊で顔がぐしゃぐしゃになってしまった。あの瞬間Pauletteは、もう2度とMichelに会えないこと、1人ぽっちになってしまったことを、全身で理解してしまったのだと思う。今度こそ本当に1人ぽっち。このやるせない気持ちや絶望感を、どこにぶつければいい?悶々としている視聴者の前に、間髪入れずFINの3文字。情け容赦なんて、ありゃしませんよ。絶望のどん底に叩きつけられたみたい。こんな小さな女の子が、一体どうやって生きていくんだよぉ?(号泣)


e0059574_3265054.jpg
あの物悲しいギターのメロディは、ヤマハ音楽教室の初めての発表会で、みんなと一緒に演奏した思い出深い曲だ。シンプルなメロディに分散和音の伴奏。みんなお揃いのブラウスとスカートに、ストラップのエナメルシューズで、子どもながらに晴れがましくもどこか面映いような気持ちで、舞台に立ったあの日のことを、このメロディーを聞くたびに懐かしく思い出します。


[PR]
# by amore_spacey | 2018-04-05 03:37 | - Other film | Comments(2)

Ovosodo

私のお気に入り度 ★★★☆☆ (74点)

e0059574_225532.jpg
【あらすじ】 奥手でおとなしい高校生Piero(Edardo Gabbriellini)は、LivornoのOvosodo地区で暮らしている。幼い頃に母親を亡くしたが、父親はさっさとMara(Monica Brachini)と再婚して、女の子が生まれた。ようやく家族5人で落ち着いた日々が続くかと思いきや、父親は窃盗罪で刑務所に送られてしまう。1997年ヴェネツィア国際映画祭で審査員特別賞を受賞。(作品の詳細はこちら


e0059574_226874.jpg
e0059574_2262350.jpg
思春期真っ只中のPieroは、シャイでちょっぴり奥手の高校生だ。家の中は常にゴタゴタしていて、居心地が悪く、ちっとも気が休まらない。自分の気持ちをぶちまけたい実の母親も、この世にいない。女の子との付き合い方も良く分からず、心の中はもやもや。この先ボクは、いったいどうなるんだろう?この作品はそんな彼の成長記であり、彼の人生を変えた人々の話である。

両親や兄弟やアパートの住人たち、単なる幼馴染から恋愛関係に発展していったSusi(Claudia Pandolfi)、幼い頃の懐かしい風景や思い出、勉強の大切さを教えてくれた中学の教師Giovanna(Nicoletta Braschi)、高校の同級生で親友になったTommaso(Marco Cocci)、初恋相手のLisa(Regina Orioli)のことなどが淡々と描かれ、あんなに頼りなかったPieroが、映画が終わる頃には結婚して家庭を築いている。青春時代の荒波をのり越え、様々な経験を経て、やっと居心地の良い場所を見つけた。ぐんと大人になった表情が、逞しく清々しい。Pieroを見つめる監督の眼差しが、これまた優しくて温かい。


e0059574_228399.jpg
e0059574_2281336.jpg
舞台となったLivornoは、Paolo Virzì監督の故郷であり、タイトルのOvosodo(固ゆで卵=uovo sodoが訛った)地区はとても庶民的な界隈である。向かい合ったアパートには労働者階級の家族が暮らし、住人たちはみんな顔見知りで、互いに助けあって暮らしている。だからちょっとしたことも筒抜けで、噂になって知れ渡ってしまう。窓からは食器の触れる音やテレビの音、赤ちゃんが泣く声や夫婦喧嘩などが聞こえてきて、隣人の暮らしぶりが手に取るように分かる。一昔前のイタリアのありふれた日常が、丁寧に描かれている。

そんな界隈で育ったPieroだから、素朴で人が良く、彼の持つ雰囲気は穏やかだ。医者や弁護士の子息子女が通う由緒ある高校に通っているが、父親が刑務所に入っているPieroは、異質の存在である。でもそこで彼は捻くれたり腐ったりしない。クラスのみんなもハブったりしない。それどころかイタリア語が得意な彼を、みんなが頼りにしている。取り繕ったりしない誠実で素直な姿に、ほっと気持ちが安らぐのです。


[PR]
# by amore_spacey | 2018-04-02 02:34 | - Italian film | Comments(0)