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タクシー運転手 約束は海を越えて (A Taxi Driver)

私のお気に入り度 ★★★☆☆ (78点)

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【あらすじ】 1980年5月、民主化を求める学生や民衆の大規模なデモが起こり、光州では市民を暴徒とみなした軍が厳戒態勢を敷いていた。そんな中、「通行禁止時間までに光州に行ったら大金を支払う」というドイツ人記者Peter(Thomas Kretschmann)を乗せ、光州を目指すことになったソウルのタクシー運転手Man-seob(Kang-ho Song)は、約束のタクシー代を受け取りたい一心で機転を利かせて検問を切り抜け、何とか光州に入ることができた。留守番をさせている11歳の娘が気になるため、Man-seobは危険な光州から早く立ち去りたかったが、Peterはデモに参加している大学生Jae-sik(Jun-yeol Ryu)や、現地のタクシー運転手ファンらの助けを借りて、取材を続けていった。実話をもとに映画化。(作品の詳細はこちら


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緑色のタクシーの運転席から満面の笑顔を浮かべたKang-ho Songのポスターや、どこか非現実的な響きのある映画のタイトルから、てっきりコメディだと思い込んでしまった。序盤は確かにKang-ho Songお得意のコミカルな笑いを誘う軽快な展開だった。が、この陽気なタクシー運転手のおやじが光州に入ってからは、全く予期していなかった内容になり、「ええーーっ、これってそういう話だったの?」と驚くやら、ポスターに騙された自分を恨めしく思うやら。全く笑えないどころか、目を背けたくなるような衝撃的な光景が登場し、タクシー運転手やドイツ人記者がどうなるのか気になり、戦場と化した光州の民衆から目が離せなくなってしまった。

この事件が起きた当時のことを、ぼんやりと憶えている。全斗煥のクーデターや金大中の逮捕、それから非常戒厳令が発令されたことなど、何日かに渡って報道されていたような気がするが、隣の国の大事件でありながら、私は全く無関心だった。1人のドイツ人記者や勇敢なタクシー運転手や光州市民たちの、命懸けの取材撮影がなかったら、ニュースにすらならなかったかもしれない大事件だ。

エンターテインメントとしてやや大袈裟な演出があったけれど、特に後半の展開には気持ちが大きく揺さぶられました。大切な一人娘のためだけに生きてきた気のいいタクシー運転手。金儲け第一主義だが、それは自分の暮らしを支えるためで、本当は心根のやさしい男なのだ。光州で見た地獄絵、そしてこの非常事態のなかで触れた光州の人々の優しさや人情に、彼は心を動かされ、何とか自分も役に立ちたいと実行に移す。その様子はヒーロー物にあるような力強さにあふれ、胸が熱くなりました。新聞やTVでは決して報道されなかった現地の生々しい様子が、1人の市民=タクシー運転手の目を通して、知ることも出来た。国にとって不都合な事件や事実は、蓋をする。権力の座に着いた政治家の、常套手段です。

ところでドイツ人記者Peterを演じたThomas Kretschmannは、『戦場のピアニスト』のドイツ人将校Wilm Hosenfeldと知って、ああ、いい感じに歳を重ねているなァと思いました。


# by amore_spacey | 2019-06-26 01:01 | - Asian film | Comments(0)

アグレッシブ烈子 (Aggretsuko) シーズン2 全10話

ネタばれあり! 

私のお気に入り度 ★★★★☆ (80点)

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【あらすじ】 独身生活を満喫している烈子のもとに、母親がお見合い写真を持ってきた。突如降って湧いた“結婚”の2文字に困惑し、烈子は母親に反発する。そんな中、経理部に新入社員の穴井が配属され、烈子はトン部長から彼の教育係を任された。同僚たちには評判のいい穴井だが、烈子の前では本性を出し始める。平穏な日常を送っていた烈子だが、ストレスの溜まる日々が再び幕を開ける。


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烈子はサンリオのキャラクターらしいのですが、これがなかなか侮れないんです。『リラックマとカオルさん』は、ドロドロした人間関係やネガティブな感情には触れないで、あくまでも癒し系路線のほのぼのとしたサンリオらしいドラマ。ところが『アグレッシブ烈子』は、毒と辛口ギャグと厳しい現実がぎっしり詰まった大人向けの濃いアニメで、烈子くらいの年代の人が観ると、身につまされ感情移入し過ぎて、ちょっと苦しくなるくらいリアルな現実が描かれ、あの年代を通り越したお姉さまやおばさま世代なら、「うんうん、あるある」「会社生活って色々あったわねェ」なんて、ちょっと遠い目で懐かしんだりほろ苦い思いに苦笑したり。痛いところを遠慮なく突いて来るので、感情移入し過ぎるとダメージを受けるかも。経理部で働く烈子にスポットをあてたシーズン1に、今シーズンは新たなキャラクターが加わり、烈子を取り巻く公私の環境に一歩も二歩も踏み込んで、毎回起きる事件の行方が、そりゃあもう気になって…。1日1話のペースでゆっくり楽しもうと思っていたのに、第1話で烈子熱に火がついて我慢できず、結局全10話を一気に見てしまいました。

まさか烈子のお母さんが登場するとは、キャラクターのチョイスといい話の展開といい、グッジョブです。お見合い写真を加工するなんて、デキるお母さんですこと。これも娘の将来が心配なあまりの親心なんですが、そんな気持ちなんかこれっぽちも分からない娘は、「余計なこと、しやがって!」出てくる台詞は、文句ばかり。鬱陶しいんですよね。私の母も田舎からわざわざ、お見合い写真を持って来たことがありましたわね(苦笑)

さて、ニューフェイスの新入社員の穴井くんが、マジで怖すぎた。あれってホラー?実際にああいう新人って居るの?彼のキャラがあまりにも酷すぎて、それに振り回される烈子が可哀相でした。でも良妻賢母のカバ恵さんや、列子に片思いのハイ田くんが機転を利かせてくれたから、穴井くんの攻め方や地雷や得意分野が分かったし、取りあえず丸くおさまって良かった。やれやれ、烈子が壊れなくてホッとしました。確かに電話をとるのって緊張します。

そして烈子が教習所で知り合った只野くん。パッと見は何だか冴えないんだけど、蓋を開けてみれば、あらビックリ。烈子はぼーっとした只野くんに、似た者同士の空気を感じ、母性本能も刺激され、只野くんは飾らない烈子に惹かれたのね。住む世界も人生観も違いすぎる2人だから、残念だけどダメだろうなぁとは思っていました。でもあんなにハートマークに囲まれた烈子を観たことがないし、幸せすぎて宙をふわふわ飛んでいる烈子が、ピンク色に染まった烈子が、とってもいじらしくて可愛らしかった。最後の決断も烈子らしかった。彼女を支えたトン部長・ゴリ部長・鷲美さん・ハイ田くんたちって、みんないい人たちだ。ゴリ部長と鷲美さんが、あの広い廊下ですれ違いざまに肩ぶつけるシーン、あれって中学生みたい。その2人が、「最近つまらないわね。烈子とカラオケも行ってないし」なんて言っているのをみると、彼女たちは烈子のことがホントに好きで、可愛いくてたまらないんだなって。シーズン3もあるのかしら?


  
# by amore_spacey | 2019-06-21 00:34 | - Japanese film | Comments(0)

いまを生きる (Dead Poets Society)

ネタばれあり!

私のお気に入り度 ★★★★☆ (84点)

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【あらすじ】 1959年、バーモントにある全寮制の名門進学校にやって来た新任の英語教師John Keating(Robin Williams)。厳格な校風には似合わない彼の破天荒な授業を通して、生徒たちは詩の美しさや人生の素晴らしさを説く教師に惹かれていった。彼らはKeatingがかつて学生だった頃に作っていた『Dead Poets Society』という同好会を、自分たちの手で復活させ、自らを語り合うことで自分がやりたいものは何か見つけていくのだった。(作品の詳細はこちら


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若いって素晴らしい。それだけで価値があると思う。様々な可能性を秘めた若者たちの、キラキラ輝いた表情。それが新鮮で眩しく、とても羨ましい。失った時間は本当に尊いものだ。これは若い人たちに観て欲しい作品ですが、教育に携わる人や世の中に出たばかりの人、それから歳を重ねた人たちにもお勧めです。時々思い出したように観ては、じわっと感動に浸っています。

高校生にはなったものの、自分が何者なのか良く分からない。将来何をやりたいのか分からない。この名門校にやって来たのは、親の勧めに大人しく従っただけ。大部分の生徒はたぶんそんな理由だったと思う。形のないもやもやしたものが巣くっている。そんな高校生の心を鷲づかみにしたのが、新任の英語教師Keating先生のユニークな授業だった。こんな型破りで自由気質の教師に、今まで会ったことがない。皆の目の前がパッと明るくなった。そうか、そんな考え方があるのか。なにも今急いで将来を決めてしまわなくてもいいんだ。焦って答えを出す必要などない。それよりも大切なことは、今この瞬間を生きること。自分で考え自分の意思で動き、自分の心の声に従って、今を精一杯生きることが、僕ら若者の使命だと。彼の影響を受けて一番成長したのは、Todd(Ethan Hawke)だろうか。入学当初はシャイで気が弱く自信がなかったけれど、Keating先生に認められてどんどん顔が変わって行った。そしてラストシーンで、真っ先に机の上に立ったのは、彼だった。あれは旧態依然とした教育への抗議であり、また今ここを去っていこうとする先生への感謝でもあり、Toddの成長の証でもありました。別れは悲しい。けれどKeating先生に出会えてよかったと、彼らは心の底から思ったのです。

それからもう1人、クラスの中で一目置かれる存在のNeil(Robert Sean Leonard)は、絵に描いたような典型的な優等生で、ひよっ子なToddにとって、大人びたNelは憧れの存在だったに違いありません。けれど、父親に反対されても演技をやろうという野心があったのに、いきなり自殺してしまった。親に敷かれたレールの上を走らされている、自分は一生親の言うなりだ、この絶望感に打ちのめされ、トンネルから抜け出ることができなかった。Keating先生の数々の言葉が、却って彼を苦しめ悩ませることになったのかもしれません。可哀想なNeil。でも、望み通りの人生を手に入れられるのはごく稀なことで、多くの人は自分や社会と折り合いをつけつつ、頭を抱えて悩んだり、問題を取りあえず脇に置いたり、不安を押しやって、何とか前に進もうとしている。どんな事情があるにしても、簡単に死を選んで欲しくないのです。そんな気持ちも含めて、Robin Williamsのことが、ただただ残念でなりません。あどけない顔をしていたEthan HawkeRobert Sean Leonardが、いまや押しも押されぬ役者になって活躍している姿を見るのは、「ああ、立派になったなぁ」と、彼らの叔母目線になって、とても嬉しくなります。 


# by amore_spacey | 2019-06-16 00:07 | - Other film | Comments(2)

DESTINY 鎌倉ものがたり

私のお気に入り度 ★★★★☆ (80点)

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【あらすじ】 幽霊や魔物や妖怪が日常的に姿を現し、さまざまな怪奇現象が起こる鎌倉。ここに暮らすミステリー作家・一色正和(堺雅人)のもとに嫁いできた亜紀子(高畑充希)は、妖怪や幽霊が人と仲良く暮らす鎌倉の街に最初は驚き戸惑うが、次第に溶け込んでいく。犯罪研究や心霊捜査にも通じている正和は、迷宮入りが予想される事件が起きると、鎌倉警察(要潤)から協力を求められる名探偵でもあった。そんなある日、亜紀子が不測の事態に巻き込まれ、黄泉の国へと旅立ってしまう。正和は愛する亜紀子を取り戻すため、黄泉の国へ行くことを決意する。


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1ヶ月近く雨が降り涼しく過ごしやすい日が続いたので、いきなり気温が30度を超えた先週末頃から、何となく時差ぼけのような感覚に見舞われています。頭と身体がうまく連動していない。そんな状態で観たのがこの映画でした。設定が斬新で面白く、文字通り現実離れしていて、不思議な空気が流れている。それがぼんやりした私の頭とシンクロして、現実とファンタジーの世界がとても心地良かった。「そう、今、こんな映画が観たかったんですよ」と膝を打つ感じでした。小難しい理論や細かいコトは抜きにして、正和と亜紀子の穏やかな夫婦愛、ベタベタしていないけれど見えない絆でしっかり結ばれている2人が、私たちの心を優しく包み込んでくれる作品です。黄泉の国へ連れて行かれた亜紀子を取り戻すストーリーを軸に、クスッと笑える小さなエピソードがいくつも入っているし、かわいらしい幽霊や妖怪やヘンな神様がたくさん出てくる、それから『千と千尋…』のような世界のCGも見応えがあり、子どもから大人まで楽しめますね。

まず主演の2人。息がピッタリ合ってお似合いの夫婦でした。充希ちゃんの仕草は本当に可愛らしく、でも嫌味のない甘え上手なところが良かった。貧乏神に優しくしたり、あんなお茶碗をもらっちゃうなんて、亜紀子らしい。堺くんの殺陣も何気にカッコよかったし、妻を思う気持ちにほろりとしました。脇を固める役者陣も主役級が勢揃いで、大盤振る舞いです。ちょっとした行き違いでケンカしたり、笑ったり驚いたり、悲しんだり心配したりしながら、日々一緒に暮らす。険悪なムードになっても、また朝が来て、食卓に夫の好物の焼き魚を並べ、それを一緒に食べる。当たり前のように思っている日常が、かけがえのない断片の積み重ねということ。これを観終わってから、もう少し夫を大事にしようと思った自分に、実はちょっと戸惑っている。こんな殊勝な気持ちになったのは、久しぶりのことです。

長年連れ添った仲の良い夫婦の片方が亡くなっても、死神に申請すれば、もう片方が亡くなるまでこの世に滞在して、一緒に居られるという下りには、思わずしんみりしました。昨秋父を亡くした母がこれを観たら、きっと泣くだろうなぁ。派手な喧嘩をよくしていたけれど、仲が良かったから。鎌倉には数回行ったことがあるが、機会があればまた訪れてみたい。私の目に可愛い妖怪たちが見えるかな?


# by amore_spacey | 2019-06-11 00:34 | - Japanese film | Comments(0)

盗まれたカラヴァッジョ (Una storia senza nome)

私のお気に入り度 ★★★☆☆ (73点)

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【あらすじ】 映画プロデューサーVitelli(Catania)の秘書Valeria(Micaela Ramazzotti)は、人気脚本家Alessandro(Alessandro Gassman)のゴーストライターを務めている。ある日彼女のもとに謎めいた男Rak(Renato Carpentieri)が近づいてきて、1969年から未解決のCaravaggioの名画盗難事件について教えてくれた。興味を引かれた彼女は事件をシナリオに起こし始め、それがAlessanderoの次回作として採用されることになった。しかしそのことが原因で、彼女たちは事件に巻き込まれていく。実際に起きたカラヴァッジョの作品盗難事件をもとに映画化。(作品の詳細はこちら


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二転三転する謎解きの中に人間ドラマを上手く織り込み、コミカルに話が展開していく、イタリアン・テイストに仕上げたサスペンス映画。謎の男Rakの正体や彼の真の目的、彼がValeriaに脚本を書かせようとした目的、プロデューサーに資金融資をする人物がマフィアに繋がっている事実、盗まれたカラヴァッジョの絵画の行方、マフィアと政府の裏取引き、Valeriaの母Amalia(Laura Morante)の過去など、興味深い要素が盛り沢山あり、また後半は劇中劇の形をとっているため、現実と劇(映画撮影のシーン)の境界線が曖昧になり、サスペンスらしい味がさらに増して見応えはあったのに、どこか尻切れトンボの結末にモヤモヤ感がおさまらない。

さてValeriaを演じたMicaelaがとても感じがよく、キュートでハマリ役でした。繊細・内気で不器用で、派手なことや表舞台に出るのは苦手だけど、抜群の文才があるので、密かに心を寄せる人気脚本家Alessandroのゴーストライターとして、ヒット作品を次々と世の中に送り出している。世界の片隅でひっそりと咲くマーガレットのような、はかなくも健気な存在です。独身の彼女は、政治家の影のアドバイザーとして活躍するマンマと2人暮らしですが、頭の良いしっかり者のマンマに押されっぱなし。そこに登場するのが、謎めいた初老の男Rakなのです。

平凡な日々にちょっぴり退屈していた彼女にとって、Rakとの出会いは何か面白そうな展開になりそうな予感がした。それどころか危険なにおいさえする。これは良い脚本が書けそうだと思ったのでしょう。そしてこの脚本が思わぬ事件を引き起こすのですが、初老の男Rakが謎だらけで、あんな厄介なことを持ち込んできたのに、Valeriaは彼を遠ざけたり通報したりしなかった。たぶん彼の情報の信憑性を確信した以上に、父性愛に飢えている彼女にとって、彼は頼りになり心安らぐ存在だったからでしょう。因みに現在パレルモのサン・ロレンツォ礼拝堂の正面祭壇にあるのは、今も行方不明となっているカラヴァッジョの名画の、デジタル版の複製画だそうです。


# by amore_spacey | 2019-06-06 01:30 | - Italian film | Comments(0)