人気ブログランキング |

しあわせの絵の具 愛を描く人 モード・ルイス (Maudie)

私のお気に入り度 ★★★★☆ (80点)

e0059574_23394284.jpg
【あらすじ】 カナダ東部の田舎町で叔母と暮らし、絵を描くことが生きがいのMaud(Sally Hawkins)は、町の店で家政婦募集の広告を見つけた。さっそく彼女はその男Everett(Ethan Hawke)を訪ね、半ば強引に住み込みの家政婦として働き始める。彼が魚の行商に出かけて留守の間は、家事をすませ好きな絵を描く。
 幼少期にリウマチを患い一族から厄介者扱いされてきたMaudと、養護施設で育ち大した学もなく、生きるのに精一杯だったEverettは、次第に互いを認め合い、やがて夫婦になった。カナダの画家Maud Lewisの伝記ドラマ。(作品の詳細はこちら


e0059574_23395145.jpg
町はずれにあるEverettの家が秘密の隠れ家のようで、現実逃避したくなったらここに篭(こも)って気ままに過ごしたい、なんて妄想をしてしまいました。荒れ果てた殺風景な室内が、Giorgio Morandiの世界を彷彿させ、寂しいと言うよりは落ち着いた雰囲気を醸し出しているから。このモノトーンの部屋が、Maudのカラフルな絵によって、次第に埋め尽くされていく。2人の距離が徐々に縮まり心を通わせていくにつれ、色使いはより鮮やかに、Maudも綺麗になっていくのです。

長らく独りで生きてくると、容易には譲れない物事や、簡単には崩れない心の壁が出来てしまう。他人と打ち解けあう交流なんぞ、もう諦めているから期待もしないし、心に蓋をして無感覚になっているから、ベッドをともにしても互いに求め合うような事態にならない。固く閉ざした殻の中にいるそんな2人が、最初はチグハグして噛み合わないけれど、不器用ながらも共同生活を積み重ねていくうちに、互いの境界が少しずつ交わるようになり、素朴な愛情が芽生えていった。彼らはとてもピュアなところで、つながっているのでしょう。Maudの笑顔はとてもチャーミングで、ホッと安心させてくれます。

Maudを演じたSally Hawkinsは、メルヘンに満ちたお菓子のような家で育ち、児童小説家でイラストレーターの両親のスタジオは、たくさんのぬいぐるみや海賊船や怪獣たちで埋め尽くされていたそうです。Sallyがちょっぴり現実離れしたオーラを放っているのは、育った環境によるものかもしれません。

ぶっきら棒でヘンなプライドがあって短気だけれど、他人を思いやる優しさがあるEverett、パッと見は薄幸で弱々しくKYっぽくてちょっと捻くれ者だけど、内に秘める強さや自由奔放な自分らしさのあるMaud。彼らを演じたEthanとSallyは息の合ったカップルで、互いがそっと寄り添って、新しい人生を静かに生きていこうとする姿には、実生活での夫婦のような空気がありました。それにしても、あのタイミングで求人メモを出してくるなんて、ったく、泣かせるじゃありませんか。2人を引き合わせたEverettの手書き求人メモ。『家政婦募集 掃除道具を持参すること』


# by amore_spacey | 2019-09-22 00:11 | - Other film | Comments(0)

トラスト 全10話 (Trust 10 episodes)

私のお気に入り度 ★★★★☆ (82点)

ネタばれあり!!!

e0059574_0132630.jpg
【あらすじ】 石油で巨万の富を築き、世界一の富豪となったPaul Getty I(Donald Sutherland)は、同時に世界的に知られたドケチでもある。一方孫のPaul Getty III(Harris Dickinson)は、誰からも愛される優しい性格を持ちながら、ローマでドラッグ漬けの自堕落な日々を送っていた。ドラッグの支払いに困り、祖父から金を引き出そうと狂言誘拐を思い立つが、事態は思わぬ方向に動き、マフィア組織'Ndranghetaが絡む本当の誘拐事件に発展していった。当初犯人は1700万ドル(約50億円)の身代金を要求したが、Getty Iはその支払いを拒否する。
  その一方でGetty Iは元CIAの交渉人Chace(Brendan Fraser)を呼び寄せて孫の奪還作戦を指示し、ローマに暮らす孫の母Gail(Hilary Swank)のもとへ送りこんだ。無駄な金は一銭も払いたくないGetty Iと、何が何でも身代金を手に入れようと画策する'NdranghetaのPrimo(Luca Marinelli)たち、息子の命を何とか救おうと奔走するGail。そんな彼女の一挙手一投足を報道しようとマスコミが付きまとい、事件は世界中を巻き込んで加熱していった。1973年に起きた誘拐事件から着想を得てドラマ化。(作品の詳細はこちら


e0059574_0134986.jpg
Luca Marinelliの一人祭り。ロンドンにあるGetty Iの屋敷とローマの街並み、そしてGetty IIIが誘拐・監禁された南イタリアの町やカラブリアの山村、そこに過去と現在を交差させながら、世界で最も有名な誘拐事件と言われるサスペンスドラマが展開していきます。Getty I卿はもちろんのこと、その背景に潜む人々の裏切や陰謀は、激しく興味をそそります。また何らかの形でGetty家や誘拐事件に拘わった人々にも、それぞれのドラマや人生がある。Getty IIIの父親でドラッグを断ち切れないGetty Jr.(Michael Esper)や彼の元妻Gail、Getty Iの妻や愛人たち、そして屋敷の全てを取り仕切る執事Bullimore(Silas Carson)の人生まで描かれた、とても深い人間ドラマなのです。映画版の『ゲティ家の身代金』よりはるかにドラマチックで楽しめました。それはさておき、Getty家の大邸宅やローマの街並みや南イタリアの山村など、ロケーションが実に素晴らしいのです。

Getty I卿は一代で巨万の富を築き、桁外れの大富豪となった人ですから、やる事成す事も桁外れ。派手な女性関係で、息子たちは全て違う女性との間にできた子どもで、愛人も何人かおり、81歳にして愛人と一戦交えるために、非合法の薬を急所に注射させるというツワモノです。この大富豪の趣味ときたら、戦闘機に乗って敷地の上空から自分の屋敷を攻撃する「ごっこ遊び」。あの歳で整形(リフティング?)も3回なさったようです。が、超ドケチなので、Nixon大統領のお墨付きをもらってすら、身代金要求額の半分しか出さず、残りは孫の父親(自分の息子)に貸し付けて利益を得ようと目論んだり、挙句の果てには身代金を値切るという守銭奴っぷり。

人を愛したり育てたりすることは、からっきし駄目な人間だ。家族愛を知らないまま、大人になったんでしょうか。彼にとって愛情とか幸せって何?「幸せ?ったく、だから凡人は嫌だ」と吐き捨てそうです。ご執心だった美術館の設立は、皮肉な結果になりましたが、自業自得ってもんです。人もどんどん去っていきました。晩年はずいぶん寂しい人生を送ったに違いありません。お金があり過ぎる悲劇と言いましょうか。Donald Sutherlandの怪演は素晴らしかった。究極の鬼畜っぷり!彼以外の役者は考えられません。

ナレーターとしても登場するカウボーイハットの交渉人Chaceは、緊迫した空気を和らげる緩衝材のような存在で、3枚目なキャラクターなんですが、お気楽な人生を送ってきた訳ではなかったようです。離婚した妻と息子の家に向かう彼の後姿は、このテレビドラマを〆るのに相応しいラストシーンでした。


e0059574_014712.jpg
Getty IIIを演じたHarris Dickinsonは、男性フェロモンが少なくて、ちょっと…ね。彼が影絵遊びをしたり(影絵を教えたのは、祖父なんです)、人質の身であるのも忘れて川遊びをするシーンは、ほのぼのとしました。


e0059574_0142332.jpg
そして舞台が南イタリアに移ると、Lucaがブイブイ言わせてます。映画版では殆ど登場しなかった、誘拐犯人の胡散臭いレストランの経営者(Giuseppe Battiston)やマフィアにもスポットを当て、さらに'Ndranghetaの内情にまで踏み込んでいるのは凄い。マフィア組織にも色んな人間が所属していて、Primoのように凶暴なのもいれば、インテリ青年や日和見派もいる。組織の結束も必ずしも固いとは言い難く、利害関係もさることながら心情的に賛同できないのが原因で、仲間割れがあったり裏切り者が出たりする。巨額の資産をめぐって親族が相続争いをする、Getty家と似たようなもんです。

さて身代金をゲットした'Ndranghetaの一族は、Primoが組長を殺害してボスになり、何と!カラブリアの海岸に巨大な港を作ってしまった。ええ、麻薬を売りさばくためです。カラブリアの貧しい村のチンピラ集団が、港のお陰でイタリア有数のマフィア組織に成り上がったという訳です。


e0059574_0143555.jpg
寡黙でポーカーフェイスで何か企んでいそうな執事のBullimoreは、第1話から気にとめていたキャラで、「1日休みをもらった」と言った時の幸せそうな顔が素敵でした。毒草のリストを、ずっと持っていたんですね。


# by amore_spacey | 2019-09-20 00:33 | - TV series | Comments(0)

ルカ・マリネッリ、おめでとう!(Luca Marinelli)

e0059574_336371.jpg
第76回ヴェネツィア国際映画祭の授賞式が9月7日に行われ、金獅子賞にTodd Philips監督のJoker、女優賞にAriane Ascaride(Gloria Mundi)、男優賞にLuca Marinelli(Martin Eden)が輝きました。


e0059574_3364688.jpg
Lucaが主演したMartin Edenは、20世紀のナポリを舞台に、ブルジョア階級の女性Elenaと出会い恋におちた、一介の船乗りMartin Edenが文学に目覚め、彼女に相応しい人間になるために、文化人としての教養を独学で身につけ、作家として成功するまでの苦闘を描いた作品で、Jack Londonの同名小説をもとに、Pietro Marcello監督が映画化したものです。


# by amore_spacey | 2019-09-18 03:56 | My talk | Comments(4)

セレニティー 平穏の海 (Serenity)

ネタばれあり!!!

私のお気に入り度 ★★★★☆ (78点)

e0059574_115858.jpg
【あらすじ】 カリブ海の島で釣り船の船長をして穏やかに暮らすBaker Dill(Matthew McConaughey)の前に、突然美しい元妻Karen(Anne Hathaway)が現れ、暴力的な今の夫Frank(Jason Clarke)を釣りに行くと見せかけ、沖に連れ出して殺して欲しいと依頼された。驚愕の依頼に動揺するBaker、企みの末に巻き起こる衝撃の結末とは?(作品の詳細はこちら


e0059574_121038.jpg
機内上映その5。MatthewとAnneのピンとこない共演ですが、Matthewがいるので何となく見始めたのですが、あまりにも突飛な結末に、観終わったあと呆気にとられてしまいました。魚釣りに出かける冒頭のシーンに、「Matthewって、やさぐれた漁師も似合うな」と寝ぼけたことを思ったり、眩しい金髪のAnneが殺人依頼をする辺りで、なーんだ、これ、チープなB級サスペンスかと落胆したのですが、「いや、待て。Matthewが出てるんだから、きっと何かあるはず」と。中盤あたりからサスペンス色を帯び始め、と同時に彼らの住む世界が、何だかおかしいことに気づく。それはともかく、Matthewのきゅっと引き締まったお尻やベッドシーン…幾つになっても彼はエロかっこいいです。サービス・シーンもあり、眼福モノでした。

実はこの映画は釣りの話なんかじゃなくて、Patrick少年(Rafael Sayegh)の苦悩や葛藤を描いた、ものすごく切ない物語だったんです。虐待を受けていたPCオタクの少年は、自分が作ったゲームの世界に現実逃避して、そこに登場する主役をJohnと呼んだ。Johnと名づけられたBakerと少年は、父息子という設定になっている。初めは単なる娯楽目的の釣りのゲームだったようだけれど、少年が義父の虐待から逃れるため、Johnに義父を殺してもらうゲームに設定変更したと思われます。どこからがゲームの世界なのか?(最初から最後まで?)BakerがJohnの記憶を持っていたのか、少年とBakerの関係がどうなのはよく分かりませんが、ゲームの世界の父親が現実に生きる息子を救うことに成功したのかなと解釈しています。水中で2人がふっと出会うシーンには、胸が熱くなり、うるうる。

うーん、私の上等でない脳ミソで咀嚼するには、展開があまりにも唐突で分かりにくかった。そういうオチだったんですかぁと、今になって納得するも、説得力が今一つなんです。Bakerにつきまとう釣り具メーカーの営業マンReid Miller(Jeremy Strong)の存在も、未だに謎。何のために登場させたの?未消化の部分があちこちに残っている作品です。


# by amore_spacey | 2019-09-09 01:11 | - Other film | Comments(0)

七つの会議

私のお気に入り度 ★★★★☆ (82点)

e0059574_0183328.jpg
【あらすじ】 都内の中堅メーカー、東京建電の営業一課で係長を務めている八角民夫(野村萬斎)。最低限のノルマしかこなさず、会議も出席するだけという姿勢を、トップセールスマンの課長・坂戸宣彦(片岡愛之助)から責められるが、意に介することなく気ままに過ごしていた。営業部長・北川誠(香川照之)による厳格な結果主義のもとで部員たちが疲弊する中、突如として八角が坂戸をパワハラで訴え、彼に異動処分が下される。そして常に2番手だった原島万二(及川光博)が、新課長に着任した。(作品の詳細はこちら


e0059574_018446.jpg
機内上映その4。不正を暴く勧善懲悪モノの社会派ドラマが大好きです。起承転結がはっきりしているので分かりやすいし、観終わったあとスカッとする。今回は下町の中小企業の社長が大奮闘する『下町ロケット』のスタッフが再結集しましたが、企業の不正を暴くサラリーマンを描いたこの映画は、『半沢直樹』の続編と言ってよいでしょう。池井戸潤の小説を映画化したドラマや映画には、三谷監督の作品のように主役・准主役級の役者が大勢出てくるが、池井戸の作品はストーリー展開もさることながら、役者たちの競演ぶりがとても楽しみです。

キャストに野村萬斎の名前を見つけたとき、一瞬、観るのを止めようかと。それは『のぼうの城』に出ていた野村萬斎の、あまりにも癖のあるキャラに激しい拒否反応を起こして、良い印象がなかったから。ところがこの作品を観て驚きました。飄々として何を考えているのか分からない。世捨て人のようでもあれば、何か企んでいるようにもみえる。謎に満ちたつかみどころのない八角を演じるのは、彼しかいない、と断言できるほどハマっていたから。彼の鋭い眼差しにグイグイ引き込まれる。彼の強さや弱さや優しさに、いちいち気持が揺れ動く。いやはや、まったくお見事でした。話は二転三転して先が読めず、「どうして?」という局面が次々と出てきますが、終盤の見所は言うまでもなく、野村萬斎と香川照之の対決でしょう。クールな野村 vs 濃い香川、今回は野村が圧勝したと思っています。

ちょっとヘタレなミッチー&朝倉あきのコミカルな演技が、映画の雰囲気を明るくしてくれた。不正はなかったとする会社の経営陣を演じる役者も、このシリーズでは常連の方。いつも終盤にちらっと出て来るだけなのに、物凄い存在感と威圧感があり、視聴者の憎悪を一手に引き受ける憎まれ役に徹して、さっさと退場する。何て潔いんだ。

物語はここで終わらず、エンドロールに続く。「不正がなぜ起きたと思いますか?」「どうすれば不正は無くせると思いますか?」の問いに、八角はきっぱり答える。「不正は無くならないと思いますよ。」 不正が無くならない理由が意外だった。藩のために忠を尽くす。そういう侍魂が、日本人の中に脈々と受け継がれているからだと。お国のために自らを捧げることを、崇高な精神であると評価してきた日本社会の体質が変わらない限り、不正は生き続けると。それに加えて人間も世の中も、清濁合わせて存在するもの。だからそう簡単に不正や戦争はなくならないと思うのです。


# by amore_spacey | 2019-09-08 00:18 | - Japanese film | Comments(0)