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愛を弾く女 (Un coeur en hiver) 

ネタばれあり!

私のお気に入り度 ★★★☆☆ (72点)

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【あらすじ】 美貌の新進ヴァイオリン奏者Camille(Emmanuelle Béart)は、ヴァイオリン工房を経営するMaxime(André Dussollier)と不倫の仲である。Maximeと組んで一緒に仕事をするStéphane(Daniel Auteuil)は、音に関して優れた感覚を持っており、Camilleの持ち込んだヴァイオリンの魂柱をわずかに細工しただけで、彼女の望み通りの音を生み出して驚かせた。自分に注がれるStéphaneの強い視線を意識し、Maximeとでは味わえない高揚感に、CamilleはMaximeに別れを告げ、Stéphaneに愛を告白するが、彼は「君のことを愛してはいない」と言う。(作品の詳細はこちら


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この作品の主人公はStéphane。一歩踏み込んで人間関係を深めることを恐れる(嫌う?)屈折した心の内を、様々なエピソードと共に綴っている。彼の繊細な心や研ぎ澄まされた感覚は固い殻で覆われ、なかなか掴みづらく、寡黙な彼の口から出てくる言葉は、ぶっきら棒で愛想がない。頭の中では何千ものことを考え、心の中でどんなに葛藤や悲しみに苦しんでいても、口から出るのは、「愛していない」の一言。その説明や言い訳もないから、言われた側は衝撃的で辛い。

Stéphaneの相手が、天才的にその場の空気が読める人だったり、包容力のある人間性豊かな人だったり、逆に全く無頓着で鈍感な人だったら、あんな修羅場にはならなかったでしょう。が、相手はCamille、音楽で自己表現する情熱的な女性です。自分の気持ちに嘘がつけない。一歩踏み出したら、もう止められない。Stéphaneへの愛を抑えきれなくなり、情熱に身を任せて押しまくって来る。狂おしいまでの激しさで、彼に迫ってくるのだ。Stéphaneの気持ちも知らないで…。炎と氷の対決ですが、結局彼は自分の世界にとどまることを選んだ。


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そう考えるとHélène(Elizabeth Bourgine)は彼にとって、気の置けない女ともだちだったのではないかしら。彼女もStéphaneタイプの人間で、他人の領域にズカズカ踏み込んで来ないが、話はきちんと聞いてくれて、的確なアドバイスもくれる。

いびつな彼を丸ごと受け止めたのは、恩師のLachaume(Maurice Garrel)だ。恩師の前では、素の自分でいられる。その恩師の最期の願いを聞き入れることが、真の愛情というもの。安楽死の注射を誰も出来なかった中で、無言のまま注射を打ったStéphaneは、罪悪感に咎められることなく、開け放った窓から青空を見上げる。2人の絆は永遠だ。


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理解に苦しんだのは、愛する女性が友人の事を好きだと感づいた場合、普通なら嫉妬を覚えるはずだが、Stéphaneに彼女を譲ろうとしたMaximeの意図だ。他の男に心を奪われた女性と関係を続けても、カッコ悪いし虚しいだけだから?これがフランス的なスマートさなんですか? 「お前、いい加減に目を覚ませよ」と言わんばかりに、MaximeがStéphaneを殴りつけるシーンも、「愛に縁遠いお前を思い遣って…」という愛のムチだったのか。Maximeはクールで洗練されているし、恋愛経験も少なからずありそうだ。そんな彼が仕事仲間・友人として一目置くStéphaneのことを、頼りない弟のように気がかりになるのも分かる。でもこういう余計な配慮を、私はして欲しくないな。空気を先読みして、勝手なことをしないで下さい。


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スタジオ録音の休憩時間にStéphaneとCamilleがビストロに行くシーンは、とても小粋で素敵でした。早く先に進みたいという熱い思いで雨を見上げる彼女、自分とは関係のない世界を薄いベール越しに見ているような彼。軒下で雨宿りする2人には、この先交差することのない前兆が、この時すでにあったのだと思う。実生活での彼らが2年で離婚したのも、同じような経緯があったのかしら?



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by amore_spacey | 2018-11-11 02:38 | - Other film | Comments(4)
Commented by BBpinevalley at 2018-11-14 10:17
Piacere.
面白そうな映画ですね。
バイオリン弾きの娘と観たいものです。
Commented by 松たけ子 at 2018-11-16 01:02 x
amoreさん、こんばんは!
秋深し、良質のヨーロッパ映画をご堪能のご様子、羨ましく存じまする(^^♪
この作品は、まだ汚れを知らぬ乙女の時に観たせいか、描かれる男女の繊細で複雑な機微がよく理解できなかったので、年月を経て身も心もおっさん(汗)になった今、再観したいんですよね~。amoreさんのレビュウ拝読して、ますます観たくなりました。
エマニュエル・ベアールはほんと美しかったわ~。この映画のヒロインみたいな女性に憧れます。ダニエル・オートゥイユはいい役者なんだけど、よほど目の肥えた人でないとその魅力が理解できない、かなり難易度の高い俳優?私みたいな軽薄ミーハーは、やっぱ見た目も役もわかりやすい男優ばかり追ってしまいますもん。周りにゴロゴロいただろうイケメンや美男に目もくれず、オートゥイユを選んだベアールはさすがです。私もいつか愛を弾いてみたいけど、その前に車で誰かを轢いてしまうそうです💦
Commented by amore_spacey at 2018-11-16 02:30
☆ BBpinevalleyさんへ。
いらっしゃいませ&初コメありがとうございます。
ヴァイオリンの曲が色々流れましたが、ラベルの作品が印象に残っています。ぜひご覧になってみて下さい。
Commented by amore_spacey at 2018-11-16 02:45
☆ 松たけ子さんへ。
歳を重ねればそれなりに男女の機微が分かるようになるかなと期待していましたが、ただの大雑把なおばさんになっただけ。今回この作品をまた観たのですが、頭や心の構造が違うことを思い知らされました。Maximeの意図が未だに謎で、夜も眠れません。

もともとのエネルギーが少ない私は、もしエマニュエルのように押し捲ったりなんかしたら、即燃料切れで恋愛どころじゃありません。そうそう、ダニエルって難易度の高い役者ですよね。ノワール系や恋愛モノに出ている彼が、寡黙&割と無表情で、いつも同じような印象を受けるのですが、深いところまで理解できない私の脳みそのせいだと思っています。
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