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BARに灯ともる頃 (Che ora è?)

ネタばれあり!

私のお気に入り度 ★★★★☆ (82点)

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【あらすじ】 ローマに暮らす裕福な弁護士Marcello(Marcello Mastroianni)が、兵役中の一人息子Michele(Massimo Troisi)に会うため、小さな港町チビタベッキアを訪れた。父親は仕事に追われロクに話すこともなかった息子に、「お前と二人だけで話がしたかった」と言い、祖父の形見の時計や新車やローマの家までプレゼントすると言い出す。父は息子を愛し息子は父を気遣うが、二人の間には次第に気まずさが増していく。1989年ヴェネツィア映画祭で、4部門受賞。(作品の詳細はこちら


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Ettore Scola監督の『特別な一日』も、ある男女の一日を描いているが、こちらは兵役に出ている息子と、久々に息子の様子を見にやってきた父親の一日。父親と息子と息子の彼女ぐらいしか出てこない。いつ終わるとも知れない二人のやりとりが、淡々と描かれているだけの地味な作品なので、役者の演技力や監督の演出がモノを言うが、演出はもちろんのこと演技も絶妙で見事、とりわけ若いMassimoと円熟したMarcelloの共(競)演は、見応えがありました。自分の実生活や過去の体験に重ねて観ているうちに、じわじわとストーリーに惹き込まれていく。このゆるやかな展開が心地良いのです。

視聴者の年代によって感情移入する人物が異なるはずで、私はどちらかと言うと父親Marcelloに近いところで、この作品を観ていました。久しぶりの再会を喜んだのも束の間、時間が経つにつれ互いの価値観の違いから、些細なことで口論になる。まくし立てるように昔の話をする父親と、その横で、うん、うん、と嬉しそうに頷く息子。父親は目に見える豊かさを息子に与えることが、幸せだと思っている。逆に息子は精神的な物を心の拠り所にし、父親の社会的な成功よりも、教養の深さや思慮深さを尊敬している。自慢の父親なのだ。だけどそんな父親から、ダメ出しされてしまう。お前は優柔不断だ、と。

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愛のエチュード』の中では、母親が娘に同じような台詞を言う。それどころか暴走して、貴族出身の許婚(いいなずけ)まで、ちゃっかり決めてしまっている。でも彼女を一概に批判できない、この親心が痛いほど分かるから。子どもには幸せな人生を歩んで欲しい。苦労を背負い込むのが分かっているのに、わざわざそんな人生を選ぶことはない。子どもだって親の気持ぐらい分かる。その子どもは、親の知らないところで、大人になっている。子どもの立場も良く分かる。

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自分の前では口数少なく、生真面目で居心地悪そうにしている息子が、あんなにいきいきとして、あんなに饒舌で、知り合いや仲間から慕われ、こんなに素敵な彼女までいるではないか。自分は一体、息子の何を見て来たんだろう。何を知っているんだろう。嫉妬とも寂しさともつかない複雑な思いが、父親の心を締め付ける。一方息子は、気がつかない内に老いてきた父親を間近にみて、ハッと胸をつかれる。あんなにテンション高かった父親が、どんどん寡黙になり内にこもっていく。

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家族だからこそ生じる、もどかしさや気まずさやほろ苦さ、寂しさや心の痛みや割り切れない思い。出来れば味わいたくない感情が、この作品の至るところに出てくる。そのたびに二人は口論したり黙り込んでしまったりするが、二人を和解させてくれるアイテムがあるんです。

Micheleの祖父が使っていた懐中時計。これを手にとって昔のようにやり取りする二人が、なんとも無邪気で可愛らしく、ちょっと羨ましく思いました。その台詞が、原題のChe ora è?(何時ですか?)。父親が息子と腕を組んで歩く冒頭のシーン、買ったばかりの靴や子ども用遊具にまたがった二人、そして息子がおずおずと歩み寄るラストシーンには、ユーモアや茶目っ気の中に、相手を思いやるいとおしさがあふれている。どこにでもある庶民の暮らしを、優しく温かいまなざしで見つめている、そんな作品でした


by amore_spacey | 2019-10-09 00:15 | ┗ Ettore Scola | Comments(0)
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