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イブラヒムおじさんとコーランの花たち (Monsieur Ibrahim et les fleurs du Coran)

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【あらすじ】 1960年代初頭、パリの貧しい地域に父親(Gilbert Melki)と暮らす13歳のユダヤ人少年Moses 'Momo' Schmitt(Pierre Boulanger)は、向かい通りの食料品店へおつかいに行くうちに、イスラム教のトルコ移民の店主Ibrahim Deneji(Omar Sharif)と心を通わせるようになった。そんなある日、父親は解雇されたショックから、Momoを一人置いて家を出て行ってしまう。Eric-Emmanuel Schmittの小説を映画化。2003年のヴェネチア映画祭で、特別功労賞(Omar Sharif)を受賞。(作品の詳細はこちら


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この映画で印象的だったのは、少年の家の窓からみたパリの下町の猥雑な雰囲気が、直(じか)に伝わってくるような、生きの良いカメラワークでした。階段をのぼっていくと、そこは石畳の狭い通り。車や人々が行き交いするその通りには、客引きの娼婦たちがあちこちに立っていて、道を渡ったところにIbrahimおじさんの小さな食料品店がある。町のにおいやゴミや汚れや喧騒をあるがまま撮って、この界隈に生きる人々の姿を生き生きと映し出している。この路地裏をちょっと散歩してみたくなるような、どこか懐かしくて馴染みのある風景に誘われ、気がついたら作品の中にいた…という訳で、監督やカメラマンの手腕がお見事なのです。

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少年Momoがいつも家の窓辺から見ている娼婦たち。彼はありったけの貯金をはたいて、彼女たちに声をかけ童貞喪失するところから、話は始まります。娼婦の気さくなお姉さん・おばちゃんやIbrahimおじさんが、少年の両親や先生の代わりになって、生きていくのに必要なことを教えてくれる。彼女との淡い恋愛関係は、大人の入り口に立った少年を揺り動かす出来事でした。物事の善悪や倫理、世の中の本音とか建前とか、それらの1つ1つが実地体験だから、Momoは身体に刻み込むように覚えていく。

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少年の父親は読書家で知識は豊富だったかもしれないが、愛情表現がとても不器用で、理想ばかり追い求めて、ちっとも現実に目を向けようとしない。その結果、彼自身が人生に行き詰ってしまう。心の糧となる読書も大切だけど、書を捨てて(父親の大量の愛蔵書を売り飛ばしたMomo、あっぱれじゃ!)町へ出よう。可愛い子には旅をさせよう。これがIbrahimおじさんたちの教えでした。

おじさんの背景にあるイスラムの世界や、生まれ故郷のトルコには、かつてイスラム教とロシア正教とカトリックが共存していたことなども、旅の道中に少年の目で確かめさせた。そこで見たことや感じたことが、Momoの自我形勢や人生観や宗教観に繋がっていくのだ。教科書では決して学べない、これこそ本当の社会見学です。ところでおじさんの店に、ペットボトルの水を買いに来た女優って、Isabelle Adjaniだったのねェ。お元気そうで何よりです。


by amore_spacey | 2020-02-03 00:35 | - Other film | Comments(2)
Commented by petapeta_adeliae at 2020-02-08 12:00
レンタルが普及して、上映情報がめっきりとなくなって
イブラヒムおじさんも終わってから知りました。
オマー・シャリフが出ていたから余計に。
エミリアさんのお話で尚更興味津々。

_φ( ̄ー ̄ )
Commented by amore_spacey at 2020-02-10 03:31
☆ ソーニャさんへ。
機会があったら、ぜひご覧になってみて下さい。パリのユダヤ人界隈の雰囲気が、とてもよく出ていると思いました。
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