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ファイティング・ダディ 怒りの除雪車 (Kraftidioten)

私のお気に入り度 ★★★★☆ (80点)

ネタばれあり!

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【あらすじ】 ノルウェー中部の小さな町に暮らす除雪車の運転手Nils(Stellan Skarsgård)は、妻と大学生になったばかりの息子の3人家族で、ささやかに暮らしていた。しかしある日息子が急性薬物中毒で死んだと知らされる。麻薬常習者ではない息子の死因に疑問を抱いたNilsは、調査を進めていくうちに、地元の麻薬組織絡みの犯罪であることを突き止めた。そして息子を殺した麻薬組織に復讐すべくたった1人で奔走するが、それが地元のギャングのボスCount(Pål Sverre Hagen)とセルビア系マフィアのボスPapa(Bruno Ganz)の間に火をつけ、Nilsは麻薬抗争に巻き込まれていく。(作品の詳細はこちら


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ノルウェーの上質なB級ブラック・コメディ。適度に緊張感があり、その端々に独特のブラック・ユーモアを挟む。ここで笑わせてやろうという魂胆はまるでなく、本人たちは大真面目だから、ギャップが却って可笑しい。それから韓国や日本の裏社会の抗争は、血や汗にまみれて汚い感じがするのに、真っ白な雪に覆われた舞台で繰り広げられる北欧の抗争は、語弊を招く言い方ですが、クールできれいな印象さえ受ける。あくまでも、印象、です。実際は血まみれ汗まみれなんですけどね。苦笑


人が死ぬたびに画面が暗転して、十字架・あだな・本名のフルネームが掲げられる。これがとても斬新。一瞬しか出てこないような、「お前、誰だっけ?」な人まで弔うかと思えば、大量死を十把ひとからげで弔ってやるこの大雑把さ。滝から落とされる瞬間、死体が「アーーー」と叫んでいるように見えるのも、ブラック・コメディの流れだからだ。


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一癖も二癖もある登場人物ばかりだが、中でもギャングのボスCountは強烈だ。ギャングと言ったら肉食系だろ?なのに彼ときたら、超真面目な菜食主義者。だが頭に血が上りやすく、ピストルぶっ放して部下を殺してしまう。妻との離婚訴訟もなかなか進まず、常にピリピリ&イライラ。チンピラ上がりで、肝っ玉が小さく薄っぺらい男だ。


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駄々っ子のようなCountとは対照的に、Papa(Bruno Ganz)にはマフィアのボスらしい風格がある。が、妙に臆病だったりするから、そのアンバランス加減が笑える。成り行き上Nilsの除雪車に乗り込んでしまってから、Nilsが自分の敵なのか味方なのか分からず、挙動不審になるPapa。ボスだったらもっと毅然としてくれよ。『ヴェニスに 恋して』から年月が経って随分老けたが、飄々としたBruno Ganzの持ち味は今なお健在で嬉しい。



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by amore_spacey | 2018-11-13 01:08 | - Other film | Comments(0)

Un coeur en hiver (愛を弾く女) 

ネタばれあり!

私のお気に入り度 ★★★☆☆ (72点)

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【あらすじ】 美貌の新進ヴァイオリン奏者Camille(Emmanuelle Béart)は、ヴァイオリン工房を経営するMaxime(André Dussollier)と不倫の仲である。Maximeと組んで一緒に仕事をするStéphane(Daniel Auteuil)は、音に関して優れた感覚を持っており、Camilleの持ち込んだヴァイオリンの魂柱をわずかに細工しただけで、彼女の望み通りの音を生み出して驚かせた。自分に注がれるStéphaneの強い視線を意識し、Maximeとでは味わえない高揚感に、CamilleはMaximeに別れを告げ、Stéphaneに愛を告白するが、彼は「君のことを愛してはいない」と言う。(作品の詳細はこちら


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この作品の主人公はStéphane。一歩踏み込んで人間関係を深めることを恐れる(嫌う?)屈折した心の内を、様々なエピソードと共に綴っている。彼の繊細な心や研ぎ澄まされた感覚は固い殻で覆われ、なかなか掴みづらく、寡黙な彼の口から出てくる言葉は、ぶっきら棒で愛想がない。頭の中では何千ものことを考え、心の中でどんなに葛藤や悲しみに苦しんでいても、口から出るのは、「愛していない」の一言。その説明や言い訳もないから、言われた側は衝撃的で辛い。

Stéphaneの相手が、天才的にその場の空気が読める人だったり、包容力のある人間性豊かな人だったり、逆に全く無頓着で鈍感な人だったら、あんな修羅場にはならなかったでしょう。が、相手はCamille、音楽で自己表現する情熱的な女性です。自分の気持ちに嘘がつけない。一歩踏み出したら、もう止められない。Stéphaneへの愛を抑えきれなくなり、情熱に身を任せて押しまくって来る。狂おしいまでの激しさで、彼に迫ってくるのだ。Stéphaneの気持ちも知らないで…。炎と氷の対決ですが、結局彼は自分の世界にとどまることを選んだ。


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そう考えるとHélène(Elizabeth Bourgine)は彼にとって、気の置けない女ともだちだったのではないかしら。彼女もStéphaneタイプの人間で、他人の領域にズカズカ踏み込んで来ないが、話はきちんと聞いてくれて、的確なアドバイスもくれる。

いびつな彼を丸ごと受け止めたのは、恩師のLachaume(Maurice Garrel)だ。恩師の前では、素の自分でいられる。その恩師の最期の願いを聞き入れることが、真の愛情というもの。安楽死の注射を誰も出来なかった中で、無言のまま注射を打ったStéphaneは、罪悪感に咎められることなく、開け放った窓から青空を見上げる。2人の絆は永遠だ。


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理解に苦しんだのは、愛する女性が友人の事を好きだと感づいた場合、普通なら嫉妬を覚えるはずだが、Stéphaneに彼女を譲ろうとしたMaximeの意図だ。他の男に心を奪われた女性と関係を続けても、カッコ悪いし虚しいだけだから?これがフランス的なスマートさなんですか? 「お前、いい加減に目を覚ませよ」と言わんばかりに、MaximeがStéphaneを殴りつけるシーンも、「愛に縁遠いお前を思い遣って…」という愛のムチだったのか。Maximeはクールで洗練されているし、恋愛経験も少なからずありそうだ。そんな彼が仕事仲間・友人として一目置くStéphaneのことを、頼りない弟のように気がかりになるのも分かる。でもこういう余計な配慮を、私はして欲しくないな。空気を先読みして、勝手なことをしないで下さい。


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スタジオ録音の休憩時間にStéphaneとCamilleがビストロに行くシーンは、とても小粋で素敵でした。早く先に進みたいという熱い思いで雨を見上げる彼女、自分とは関係のない世界を薄いベール越しに見ているような彼。軒下で雨宿りする2人には、この先交差することのない前兆が、この時すでにあったのだと思う。実生活での彼らが2年で離婚したのも、同じような経緯があったのかしら?



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by amore_spacey | 2018-11-11 02:38 | - Other film | Comments(0)

追想 (On Chesil Beach)

ネタばれあり!

私のお気に入り度 ★★★☆☆ (72点)

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【あらすじ】 1962年夏、歴史学者を目指すEdward(Billy Howle)と若きバイオリニストFlorence(Saoirse Ronan)は、結婚式を終え新婚旅行でドーセット州のChesil Beachを訪れていた。ビーチ近くのホテルの部屋で食事をする新婚の2人は、初夜の興奮や不安などさまざまな感情に襲われる。会話が緊迫して気まずい空気になり、2人は口論を始めてしまう。ホテルを飛び出して行ったFlorenceをEdwardは追いかけるが…。Ian McEwanの小説を映画化。(作品の詳細はこちら


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新郎新婦がどちらも初体験で、しかも新婚初夜の描写にかなりの時間が割かれている。となると、緊張のあまり彼らがぎこちなくなればなるほど、突っ込み所も増え、撮り方によってはコメディになりかねない。紙一重のところで若い2人の気持ちに寄り添っているが、彼らが新婚だと知って、ちょっと舐めた感じで給仕をしたり部屋を出ると笑っていたルームサービスのスタッフたちは、全くの部外者だからつい茶化したくなるってもんです。2人のぎこちなさや間の悪さに、何か、こう、もどかしくイライラしてじれったくて、私も突っ込みながら観ていました。

性がタブー視された閉鎖的・保守的な時代だったとはいえ、もし彼らがあっけらかーんとした楽天的な性格なら、初夜の失敗を笑って済ませたのではと思う。ところがこの2人の結婚生活は、それが原因で一晩で破綻した。心身ともに未熟で、生真面目すぎたんでしょうね。Edwardは教師の息子で母親は事故(あのシーンには笑った)で脳に障害があり、長男の彼は彼女の奇行に翻弄されてきたから、やや情緒不安定で寡黙だ。Florenceは裕福な企業経営者の娘だが、父親は傲慢で有無を言わせず、母親からは母性愛を感じられない。2人が育った家庭には、彼らの人格形成に影を落とすような環境があったことは確かだ。FlorenceもEdwardのことをとても愛していたが、それとなく下に見ていた節(ふし)がある。彼女のクールなところは、ツンとすました母親にも似ている。


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そしてビーチでの2人。切なくなるような曇り空に細長くのびる砂嘴、足をすくわれそうになる玉砂利のビーチ、木の舟にぽつんと座ったFlorence、向こうからゆっくり歩いてくるEdward。とても印象的なシーン。しかしここが、修羅場の舞台となる。抑えていたものが一気に噴出し、互いに激しく口論。ヒートして相手を思いやる余裕などなく、取り返しのつかない言葉を投げ合う。愛していると言いながら、結局は自分のことしか考えられない。あのシーンの少々高圧的な彼女は、傲慢な父親の姿にそのまま重なる気がする。


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何度か出てくる、Florenceが舟の上で父親に厳しく叱咤されているシーンは、父親の性的虐待を匂わせるようだけれど、これに関してはそれっきりなので、彼女の断片的な思い出の1つとして取り上げられたに過ぎないのか?性的虐待が実際にあったのか?はっきりしない。どちらにしても高圧的な父親のもとで、彼女は萎縮して育ったのは明らかだ。破綻した原因や責任は両者にあると思うが、私はEdwardがちょっと可哀相でならない。と言うより、Florenceという人間が、よく分かりません。13年後と35年後の2人のシーンは、必要なかったのでは。年月を経てもEdwardはFlorenceのことを忘れていない、それどころか時間薬で過去の苦い思い出は美化され、彼女に対する淡い思いを引き摺っている。それが言いたかったのか?意図がはっきりしない。

Bach・Haydn・Mozart・Beethoven・Schubert・Rachmaninovの室内楽や交響曲が素晴らしく、とても居心地の良いひとときを過ごすことができたので、音楽だけならお気に入り度は100点満点。



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by amore_spacey | 2018-11-09 01:12 | - Other film | Comments(0)

幸せになるためのイタリア語講座 (Italiensk for begyndere)

ネタばれあり!

私のお気に入り度 ★★★☆☆ (76点)

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【あらすじ】 妻を亡くした若者Andreas(Anders W. Berthelsen 岡田准一に似てる?)は、臨時の牧師として教会に配属された。ホテル住まいの彼は、中年のJørgen Mortensen(Peter Gantzler)に会う。Jørgenの友人Finn(Lars Kaalund 『ホームランド』のRupert FriendやOrlando Bloom似のちょいイケメン)はレストランのマネージャーだが、とても怒りっぽい。Finnのアシスタントは、愛らしい若いイタリア人Giulia。ちょっぴり不器用なOlympia(Anette Støvelbæk)はベーカリーの店員で、わがままな父親がいる。美容師のKaren(Ann Eleonora Jørgensen)には、病気の母親がいる。
  彼らは地元のイタリア語講座を通じて出会い、それぞれが抱える孤独や喪失感や悲しみや絶望を乗り越え、恋や将来の希望を見出していく。第51回ベルリン国際映画祭で、銀熊賞など計5部門を受賞。(作品の詳細はこちら


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オープニングから、居心地の悪い雰囲気が漂う。みんなの表情が暗く疲れている。夫々が背負っているものにある種の絶望を抱きながらも、自分の気持ちを抑えて淡々と暮らしている。いい歳した大人が生きることに不器用で、危なっかしくて仕方がない。そこから抜け出ようともしなかった(出来なかった)が、週に一度のイタリア語講座に参加する辺りから、状況がゆるやかに変わり始める。


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そしていつの間にか登場人物たちが、みんな幸せそうな表情になっているのです。きっかけはイタリア語講座だったが、実は彼らの中にある友情や肉親への愛情や淡い恋心が、希望ある未来に導いてくれたのだと思う。他者へのちょっとした気遣いに、私たちはほとんど気がつかないまま過ごしているが、それらが未来への明るい伏線となっていくのだ。そしてそこから一歩踏み出せば、道は必ず開ける。そう、自分次第なんです。と言いながら、Olympiaの父親のような暴言を吐かれたり、Karenの病気の母親のように職場に来られたりしたら、たぶん私は切れて、啖呵を切っちゃいますねェ。


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因みにイタリアに嫁いで来るまでは、この国に対して明るくポジティブなイメージが強かった。どちらかというと私は北欧タイプなので、大丈夫かしら?ここでうまくやっていけるかしら?なんて不安を抱いたものです。が、地域や育った環境や受けた教育(究極はその人の人間性に尽きるのですが)により、当たり前のことだが様々なタイプの人がいるので、当然波長が合ったり合わなかったりする。

そんな彼らも、親や友人そして自分自身と折り合いが合わず葛藤したり、いつか必ず訪れる死や乗り越えねばならない問題に苦悩したりと、誰も彼も何がしかの問題を抱えて生きている。でも大丈夫、きっと何とかなるさ。人生は1度きりなんだから、今を楽しまなくちゃ。問題を解決しながら、必要以上に悲観的にならず、自分の人生も大切にする。そんなイタリア人気質が好きだ。ヴェネチアにやって来たKarenたちの生き生きとした表情に、私まで嬉しくなりました。



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by amore_spacey | 2018-11-05 17:06 | - Other film | Comments(0)

戦場のピアニスト (The Pianist)

私のお気に入り度 ★★★★☆ (86点)

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【あらすじ】 1940年、ドイツ占領下のポーランド。ユダヤ人のラジオ局ピアニストWladyslaw Szpilman(Adrien Brody)は家族と共にゲットーへ移住した。やがてユダヤ人の収容所移送が始まったが、家族の中で彼だけが収容所行きを免れる。空爆を受けたワルシャワの廃墟の中、食うや食わずの潜伏生活を送るある日、彼はドイツ人将校Wilm Hosenfeld(Thomas Kretschmann)に見つかってしまった。Wladyslaw Szpilmanの自叙伝『ある都市の死』(Śmierć miasta)を映画化。2002年のカンヌ映画祭でPalme d'Or、2003年のアカデミー賞の監督賞・主演男優賞・脚本賞を受賞。(作品の詳細はこちら


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先日の夜、ふっとまた『真夜中のピアニスト』を観ていたところ、ピアノの音色から本作品のことを思い出し、再鑑賞しました。Szpilmanを演じたAdrien Brodyの父Elliotはポーランド系ユダヤ人、母Sylviaはハンガリー&チェコ系ユダヤ人で、父はホロコーストで家族を失い、母は1956年のハンガリー動乱の時にアメリカに亡命していたことを、鑑賞後に調べて知りました。

Adrienにとってホロコーストは、自分の人生の一部のようなもの。「撮影中は本当に疲労困憊(こんぱい)した体験だった。その後の1年間は極度の鬱状態にあった」とコメントしているが、それは想像を絶する辛さがあったと思う。運が良かったと言うしかない、とても運に恵まれていた。しかしそれが却って、恨めしい。あれほど生きることに必死だったのに、自分だけ生き残った罪悪感や申し訳なさに苛(さいな)まれ、ホロコーストの悪夢にうなされ続ける。可哀相にあの頃のAdreinは、21世紀に生きながらホロコースト真っ只中の日々を送っていたのだ。


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事実を受け入れることしかできない一市民を、Adrienは抑えた演技で見事に体現したと思う。一家離散のあと必死に生きのびようとする姿や、代役なしで臨んだピアノ演奏シーンは圧巻だったし、ドイツ人将校たちの吐き気のするような暴虐ぶりや、廃墟となったワルシャワの町などは、映画のセットとは思えないほど臨場感に溢れていた。

また1個のキャラメルを売り歩く子どもを見た父が、「こんな状況の中で金を稼いで何になる」と言いながらも、キャラメルを買い求め、6人の家族のために等分するシーンや、ドイツ将校と出会う前に見つけたピクルスの缶詰を、片時も手放さないSzpilman。目前に迫っている悲劇をおぼろげながら知りつつも、何とかして生き延びたい彼らの生への貪欲さが、これらのシーンに凝縮されて、居たたまれなくなった。生きる、これは人間の本能だ。


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冒頭のノクターン第20番、終盤のバラード1番、そしてエンドロールを飾る華麗なる大ポロネーズ。ショパンは、ポーランドに生きるすべての人々に愛される音楽家なのだなと、あらためて思った。ドイツ将校の前での演奏は、今まで黙って背負い込んでいたものを全て表に出すかのような、音に委ねた彼の独白だったに違いない。終戦後、再びラジオ局でノクターン第20番を弾く時の、彼の表情が忘れられない。解放の喜びも束の間、無念の思いに感極まる。それをそっと押し殺して弾き続ける彼に、胸が押しつぶされそうになりました。


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by amore_spacey | 2018-11-02 01:21 | - Other film | Comments(2)

キッチン・ストーリー (Salmer fra kjøkkenet - Kitchen stories)

ネタバレあり!

私のお気に入り度 ★★★★☆ (80点)

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【あらすじ】 1950年代初頭、スウェーデンの家庭調査協会は台所での独身男性の動線調査のため、調査員たちをノルウェーの片田舎に送り込む。一人暮らしの初老の男Isak Bjørvik(Joachim Calmeyer)のもとにも、6週間を期限として調査員のFolke Nilsson(Tomas Norström)がやって来た。しかし応募したことを悔やんでいたIsakは、頑としてドアを開けようとしない。(作品の詳細はこちら


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日本語タイトルから頭に浮かんだのは、アメリカやフランスやイタリアのグルメ系の話。ところが、これはノルウェーの作品である。この時点ですでに、なんだか面白そうな予感がした。そしていきなりオープニングで台所行動学なるものが展開し、仰々しい器具をつけた人が実験を行っている様子に、好奇心がそそられる。50年も前に独身男の台所の行動に着目していたとは!北欧、恐るべし。

背の高い木の椅子を積んだ何十台ものキャンピングカーが、広野の1本道を大名行列よろしく村に向かう光景は圧巻であり、国境できっちり車線変更(1967年9月2日までスウェーデンは左側通行、ノルウェイは右側通行)するのも、道路交通法で当然のことなんだけど、律儀さが滲み出ていてしみじみ。50年代の北欧の車や家屋なども、歴史を感じさせて興味深い。


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北欧作品の何が面白いって、無表情で頑固で偏屈で口数少ない男たちの存在だ。何を考えているのか分からない。大袈裟な身振り手振りや豊かな表情で声高に話すイタリア人の中で暮らしていると、北欧の人々が不機嫌な銅像に見える。本作品は調査員のFolkeと被験者のIsakそしてIsakの知人Grant(Bjørn Floberg)の3人が織りなす物語で、他には調査員を監視するイケズなMalmberg(Reine Brynolfsson)や煙草をくわえたまま診察するふざけた医師やIsakの病気の愛馬が出てくるが、どの人も判で押したように無表情なのです。実は面倒見が良かったり、人情厚い人だったり、義理堅い人だったりするのだけど、きっかけがなくては相手を知ることが出来ない。

ここでは調査員と被験者は絶対に口をきいてはいけない、というルールがあるため、コミュニケーションの手立てがない。でも人間は社会的な生き物、狭い空間で暮らす2人が、相手に無関心ではいられないものなのだ。案の定FolkeとIsakは、ちょっとしたことをきっかけに、交流を深めていく。まるで恋に不慣れな若い男女のように、おずおずと距離を縮めていく様子が微笑ましく、それを快く思わないIsakの知人Grantが、拗ねた子どもみたいでいじりたくなる。


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いい歳した3人の男たちと彼らを取り巻く日常生活、そしてそれにまつわるちょっとしたエピソードの数々。話が進むにつれて、気持がどんどん優しくなり顔が緩んでくる。全てを捨ててIsakのところに戻って来たFolke、そんなFolkeを待っていたのは冷たくなったIsakと彼の愛馬、そしてIsakを看取ったGrant。何もかも終わってしまったかに見えたけれど、雪がとけ春になった村のIsakの家にFolkeが移り住み、相も変わらずGrantがお茶を飲みにやって来る。合図はIsakの時と同じ。引き継いだ家と友情の中には喜びや悲しみの歴史があり、この先も細く長く紡いでいくであろう、そんな余韻を残していた。この余韻をゆっくり味わいたい。


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by amore_spacey | 2018-11-01 01:40 | - Other film | Comments(2)

とまどい (Nelly et Monsieur Arnaud)

ネタばれあり!

私のお気に入り度 ★★★★☆ (80点)

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【あらすじ】 失業中の夫Jerôme(Charles Berling)を抱えて働きづめの毎日を送っていた25歳のNelly(Emmanuelle Béart)は、ある日カフェで初老の紳士Arnaud(Michel Serrault)と知り合った。Nellyが経済的な問題を抱えている事を察したArnaudは、会ったばかりの彼女に対して即座に資金提供を申し出ると同時に、彼が執筆中の自伝のタイピストとして働くことを提案する。2人は仕事を進めていく内に、年齢差にもかかわらず互いに惹かれ合うものを感じるようになった。しかし若くて魅力的なArnaudの担当編集者Vincent(Jean-Hugues Anglade)が出現したことにより、2人の関係は微妙に変化していく。(作品の詳細はこちら


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大きな瞳の清楚で可愛らしい容貌に、成熟した女性の色気の加わったEmmanuelle Béartが、とても魅力的でした。表情だけで勝負が出来る。所帯染みて疲れ切った妻を演じても、どこか小粋な雰囲気が漂い、さすがフランス女優だなと思う。だからなおさら今のEmmanuelleがとても残念でならない。お直しする必要ってあった?


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さてこの作品は、初老の男性と25歳の既婚女性の、友情以上恋愛未満の物語とでも言いましょうか。しっとりと落ち着いた雰囲気の中で、心にさざなみを誘う話が展開し、秋の夜長に相応しい作品でした。

2人は自叙伝を口述する人と清書する人という枠から決してはみ出ず、男女の一線も越えず、適度な距離を保ちながら淡々と仕事を進めていく。色恋沙汰の派手な修羅場は全く出てこない。そこに触れないからこそ余計に、彼らの胸の奥に疼く淡い思いが透けて見えてくる。Arnaudに比べVincentのアプローチは、積極的で直情的。若さってそういうことね。彼のねっとりした艶かしい視線が、納豆の糸のように絡みつく。Nellyの夫のダメっぷりや間抜けっぷりが、滑稽ですらある。


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年齢もタイプも全く違う3人の男に囲まれたNellyは、ArnaudやVincentと愛し愛された関係を築いたものの、結局どちらからも離れて行くが、そこに未練はなく、すべてがクールに処理されていく。Arnaudの資金提供の申し出の場面でも、「えーっ、初対面のあなたが、どうして私に?」 下心など全くないと言われても、 「いやぁ、それはちょっと違うんじゃ?」「超ラッキー!だけど、これって裏があるわよね、絶対に」とかなんとか、押し問答の1つや2つがあってもおかしくないし、普通はそういう展開になるはずだが、あの時Nellyは案外すんなりとOKした。夫との協議離婚もあっさり承諾、Vincentとも後腐れなく別れている。それは彼女がブレていないから?女の意地がそうさせたの?

それとも恋愛で燃え尽きたあとの男女というものに、心から絶望しているのか、「恋とか愛とか結婚とか人生って、結局こんなものよね」と諦観しているのか。はたまた自分が傷つきたくなくて、クールな女を装っているだけなのか。Arnaudが妻と旅立ったあと、彼のアパートに1人残されたNellyが、パソコンに向かって自叙伝の最終章を清書する。このラストシーンが焼きついている。


 
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by amore_spacey | 2018-10-28 00:26 | - Other film | Comments(4)

戦場のアリア (Joyeux Noël)

ネタばれあり!

私のお気に入り度 ★★★☆☆ (70点)

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【あらすじ】 第1次世界大戦下、フランス北部の最前線デルソーで、敵対するフランス・スコットランド連合軍とドイツ軍兵士たちは、クリスマスを迎えることになった。そんな中、ソプラノ歌手Anna Sörensen(Diane Kruger)と彼女の夫でドイツ軍兵士のテノール歌手Nikolaus Sprink(Benno Fürmann)は、塹壕で聖歌を披露するのだが…。実話に基づき映画化。(作品の詳細はこちら


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ひっそりと続けているDaniel Brühlの1人祭り。日本語タイトルは分かりやすいが、オリジナル・タイトルからはまさかこんなストーリーが展開するなどとは、思ってもみなかった。第1次世界大戦下の塹壕戦のさなかに起きた、「クリスマス休戦」の事実をもとに作られた作品で、まさしくクリスマスの奇跡である。派手なアクションなどはない代わりに、戦地に生きる各軍の指揮官たちや兵士たち、そして彼らの思いを、丁寧にすくいとって描き出している。

残念だったのは、最後にAnnaとNikolausのとった行動で、あれは夫が戦場に残り、妻は一人で帰る展開のほうが良かったな。まぁ、本を正せばこのクリスマス・コンサートも、Annaが前線にいる夫に会いたい一心から思いついた企画で、戦場の兵士たちを慰問しようという純粋な気持ち(もあったとは思うが)からではなかったし、女一人が戦地に赴くという無謀な企画が実現したのも、皇太子がAnnaの熱烈なファンだったからで、彼女にとっては幸運の連鎖が生み出した結果なのだ。やり方がズルいよね、あの皇太子なら絶対にOK出してくれるって確信していたに決まってるから。


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さてドイツ軍に届いた何本ものクリスマス・ツリーに、スコットランド軍が奏でるバグパイプの美しい音色、そしてドイツの歌手が歌うアリア。Nikolausの美しいテノールにつられて、つい口ずさんで歌っていた両軍の兵士たちは、不思議なもので次々に塹壕の外に出ていった。音楽は人の心に潤いをもたらし、ささくれた気持ちを癒してくれると信じて疑わない私にとって、このシーンは感動的でとても嬉しかった。猫のエピソードにも目頭が熱くなりました。各軍の現地指揮官たちは互いに酒を酌み交わし、兵士たちもフランスのシャンパンで敵味方なく乾杯して、イヴの夜を迎える。

ところがこのクリスマス・イヴの奇跡は美談として終わったのかと思いきや、感動的な夜のあとには、過酷な現実が待ち受けていた。戦地から遠く離れた安全圏内で無謀な指示を出す国や軍の上層部、軍隊教育を受け現地に配置された指揮官たち(中間管理職の苦悩をDaniel Brühlが好演していた)、そして兵士として戦場に駆り出され敵兵を殺す、肉屋のおやじ・菓子屋や八百屋や呉服屋の主人・農夫・木こり・漁師…などの一般市民。戦争がどれほど愚かで悲惨な行為なのか、戦場に出なくては分からない。とか言ってるうちに、今年もあと2ヶ月余りでクリスマスです(驚愕)


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by amore_spacey | 2018-10-23 00:52 | - Other film | Comments(0)

コッホ先生と僕らの革命 (Der ganz große Traum) 

私のお気に入り度 ★★★☆☆ (78点)

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【あらすじ】 1874年、イギリス留学を終え、ドイツへと帰国したKonrad Koch(Daniel Brühl)。とある名門校へ英語教師として赴任した彼は、授業の一環としてサッカーを教える。サッカーを通して、子どもたちはフェアプレーとスポーツマンシップの精神を学び、それまで抱えていた階級や国籍に対する偏見が少しずつ薄れていった。しかし、帝国主義下にあったドイツでは反英感情が高まっており、イギリスで確立されたサッカーは反社会的なものの象徴であった。地元の有力者やほかの教師たちは、Kochを学校から追い出そうとする。(作品の詳細はこちら


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再びDaniel Brühl1人祭り。機内上映のプログラムにこの作品を見つけて、「やったァ!」と思ったら、吹き替えも字幕もなく、ドイツ語のみ。それでも諦めきれず根性で観始めたんだけど、朦朧とした頭にドイツ語が全く入ってこなくて断念した経緯があるので、今回はイタリア語吹き替えをじっくり堪能でき、溜飲が下がりました。時代背景を考えると、シリアス一辺倒になってもおかしくはないが、コミカルなシーンもほどよく織り込まれ、娯楽作品としてとても良く出来ていると思う。Danielの3枚目振りも、お茶目。


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体罰が横行するドイツの伝統的な教育に疑問を感じ、サッカーを通してフェアプレーやスポーツマンシップを、地道に根気よく教えていくKoch先生。みんながすぐには賛同しなくても、最後まで諦めない忍耐力やある種の頑固さを持ち合わせた先生。と言ったらもうDaniel Brühlが演じるしかないでしょう。生真面目で世渡りが下手なんだけど、自分が信じた道を突き進んでいく。

自分が先頭に立って突っ走って行く人ではなく、子どもたちの個性や能力をちゃんと見ながら、後ろ盾になってやる。いいね、いいねぇ。Koch先生の一生懸命さは、森田健作や松岡修造のように身も心も熱い。のではなく、見た目は冷静沈着だが、心の中では青い火がぼーぼーと燃えさかっているタイプなのだ。


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サッカーって、ただボールを蹴るだけじゃん。種目は違うがF1を観ながら、「ただ車がぐるぐる走ってるだけじゃん」って思いますもん。無知って最強だ。最初は団子のように固まってボールを追いかけているだけだった子どもたちも、ルールが分かってくるにつれて、自分のポジションを守ったり攻めたり、タイミングよくボールをパスしたりして、チームプレイというのを体得していく。大人と違って、子どもは柔軟ですから。


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サッカーによって、子どもたちの表情やクラスの雰囲気も、どんどん変わっていきます。地元の有力者の息子Felix(Theo Trebs)一派と、彼らにいじめられていた労働者階級のJoost(Adrian Moore)が、いざサッカーを始めてみたら、Joostのほうがずっと上手なことがわかったりして、サッカーをしている間だけこのクラスは、階級や貧富などの垣根が取っ払われる。ぽっちゃり太った靴屋の子Otto(Till Valentin Winter)は、クラスのムードメーカーで友だち思いで、サッカーへの熱意も人一倍あって、ついには職人や父親を巻き込んで、サッカーのボールを作らせてしまう。ラストシーンでOttoのお父さんたら、簡易スタンドでちゃっかりボールを売ってるんだから(笑)


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by amore_spacey | 2018-09-29 15:41 | - Other film | Comments(2)

キング・アーサー (King Arthur: Legend of the Sword)

私のお気に入り度 ★★★☆☆ (70点)

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【あらすじ】 王の息子として生まれ、その跡継ぎとされていたArthur(Charlie Hunnam)は、暴君Vortigern(Jude Law)によって両親を殺され、スラム街へと追いやられてしまう。過酷な環境の中、Arthurは生き抜く知恵を身に付け、東洋人の師範カンフーGeorge(Tom Wu)に格闘技を習って肉体を鍛えた。やがて無双の力をもたらす聖剣エクスカリバーを手にする。そして仲間たちと共に圧政を敷くVortigernを倒し、王座に就こうとするArrthurだった。(作品の詳細はこちら


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機内上映その3。『アーサー王物語』を文学的に愛する人にとって、本作品は「ここまで脚色されたんじゃぁ、全然別物だァ!」と叫ばずにはいられないでしょう。『キング・アーサー』と比べてみても、史実から離れて娯楽的な要素がとても強い。けれどフライト上映や居間でグダグダした状態で観る分には、さらっと楽しめる。

これはArthurのための作品なので、彼にとって都合のいいようにすべてがお膳立てされているのです。私も1日でいいから、そんな環境で暮らしてみたい。Arthurには聖剣エクスカリバーさえあれば、この世に恐いもんなしで、Vortigernなんか屁でもありません。ただ、岩から剣を抜き取るシーンを観ながら、あれだったら私でも簡単に抜き取れるなと。演技が安っぽくて下手すぎる。Sons of AnarchyのCharlie Hunnamがとても良かっただけに…。円卓の騎士がクンフーで身体を鍛えるって設定にも、うーん。ま、細かいことはスルーしましょ。


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愛する人(妻や娘)と権力を秤にかけ、泣く泣く前者を殺すたびに不思議な力を授かるJude Lawの、どんどんせりあがって行く額の生え際が気になりつつ、戦闘のシーンに出てきた巨大ゾウ軍団は、架空の怪物が出てきた『ロード・オブ・ザ・リング』やドラゴンやゾンビ軍団が出てくる『ゲーム・オブ・スローンズ』に似てるなと思いつつ、途中でうたた寝しそうになった私の前に、「えっ、今のBeckham?」 そこでパッチリ目が覚め、巻き戻して彼を確認したりしつつ、無事完走することが出来ました。


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by amore_spacey | 2018-09-20 00:51 | - Other film | Comments(0)