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夕なぎ (César et Rosalie)

ネタばれあり!

私のお気に入り度 ★★★☆☆ (70点)

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【あらすじ】 シングルマザーのRosalie(Romy Schneider)は、解体業を営む50歳前の男César(Yves Montand)と出会い同棲するようになった。そんなある日、母Lucie(Eva Maria Meineke)の3回目の結婚式で、かつての恋人David(Sami Frey)に再会したRosalieの心は揺れる。彼は5年前に彼女のもとを去っていったが、再び彼女に愛を告白する。それを知ったCésarの心も、激しく動揺する。2人の男性にはさまれ、悩んだRosalieは、姿を消すが…。(作品の詳細はこちら


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ちょっと、何これ。Rosalieったら贅沢すぎるじゃありませんか。CésarとDavid、全くタイプの違う2人の男から、ここまで愛されるなんて、羨ましいったらありません。陽気で情熱的なCésarは、Rosalieへの愛のためなら地の果てまで追いかけ、恥も外聞もなく男の虚栄や嫉妬を剥き出しにする。玩具を買ってもらえない子どもが癇癪をおこし、床にひっくり返って泣き叫ぶ、アレだ。一人前の男があそこまで大暴れするなんて、よく言えば一途で無邪気でかわいいが、こんなタイプは重すぎて嫌だー。

一方のDavidは熱い思いを胸の奥に秘めて、表面的には超クール。リアクションがCésarとはぜーんぜん違うのだ。Rosalieを愛するればするほど、何だかそっけなくなっちゃう。プラトニックな愛に似て、人を愛する自分が好き。彼はナルシストなんだろうな。Césarと違ってDavidは修羅場に遭遇したくないから、悪い兆候を察するや否や、そっとRosalieの元を去っていく。引き際も実にスマートでクールなのは、自分が傷つきたくないから?

そして母の血を受け継いだRosalieは、愛に奔放で束縛を嫌い、全くタイプの違う2人の男の間を、気の向くまま行ったり来たりしている。Rosalieを演じるRomy Schneiderの、輝くばかりの美しさや気品といったらどうでしょう。優等生的な女優Romyが、フランス映画の恋愛モノで違和感がないのは、驚異的なことで、彼女が成熟した女性になったという証でしょう。男たちに媚びたり寄りかかったりせず、しなやかにたくましく生きるRosalieは、まるでRomyの分身のようでもあります。

そうこうしているうちに、ストーリーは意外な方向へと展開していく。水と油のようなCésarとDavidに、まさか楽しく談笑する日が来ようとは…。彼らは恋敵(がたき)だったのに、いつの間にか奇妙な友情が芽生えて、親友と呼んでもいいような間柄になっちゃうんだから。男って、女って、恋愛って、人生って分からないものです。この先も3人の間には、夕なぎのような穏やかな関係が続くのだろう、という余韻を残しつつ作品は終わる。これがフランス的大人の愛なのか。私には無縁の世界だなぁ。少女の雰囲気を残すIsabelle Huppertが、ちらっと出ていました。余談ですが、当時のフランスの消費税が25パーセントって…(絶句) 今何パーセントなの?


by amore_spacey | 2019-03-13 01:11 | - Other film | Comments(2)

幸せなひとりぼっち (En man som heter Ove/Mr. Ove) 

私のお気に入り度 ★★★★☆ (80点)

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【あらすじ】 愛妻Sonja(Ida Engvoll)に先立たれ失意のどん底にあったOve(Rolf Lassgård)の日常は、Parvaneh一家が隣に引っ越してきたことで一変した。車の運転や病院への送迎・娘たちの子守などを頼まれて、迷惑な彼らを罵(ののし)るOveだったが、Parvaneh(Bahar Pars)は動じない。その存在は、いつしか凍てついた彼の心を解かしていった。(作品の詳細はこちら


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子どもの頃、裏の畑に立っていた6畳足らずの納屋に、おじいさんが1人で暮らしていた。「あそこには近づかないほうがいい」と言われたそのバラック小屋は、コワいけれどちょっと覗いてみたい好奇心に駆られる場所だった。ある日友だちとバラック小屋の前まで行ってみると、真っ白な髭をはやしたハイジのおじいさんのような人が、「中に入るかい?」と言って、私たちを招き入れた。村の人が噂するような、危険なおじいさんではなかった。週に1度来てくれる娘さんの話をしてくれたような気もするが、バラック小屋が物珍しい私たちは、彼の話など上の空。それから道で会うたびに、おじいさんと挨拶をするようになった。今になって思う。あの人にもかつては少年時代があり、大戦の激動を潜り抜け、結婚して家族をもち、子どもにも恵まれた。どんな経緯でバラック小屋の暮らしになったのかは定かでないが、あの人なりの人生が確かにあったんだ、と。この作品を見終わってから、記憶の彼方に飛んでいたあのおじいさんのことが、ふっと頭に浮んだのでした。

頑固で分からず屋のOveが、何かの拍子にふっと思い出す、少年時代の父との思い出や、美しい妻との出会い、思い出の喫茶店のケーキ、そして結婚に至るまでのエピソードは、生き生きとした色彩を帯びている。とりわけ愛妻Sonjaが出てくるシーンは、真紅のバラがパっと咲き誇ったように華やかで、彼女の大らかな性格や生き様も素晴らしかった。そんな彼女と実直で誠実で純情なOveの、慎ましくも幸せに満ちた結婚生活。しかし妻に先立たれ会社もクビになって、絶望のどん底に突き落とされてしまう。

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彼の都合など全くお構いなく、Parvaneh一家は次々に厄介事を持ち込んでくる。それを無視できず、愚痴を言いながらも付き合ってしまうOveって、実は面倒見の良い心根の優しい人なんだ。隣に引っ越してきたのがParvaneh一家で、良かった。彼女はどこか憎めないところがあって、人の心にするりと入り込んでくる。外国人として暮らすParvanehの存在が、何かしら気になり、役に立ちたいと思うようになる。Oveの心の扉を開いていったのは彼女だけでなく、妻の元生徒だったという若者たちや、かつて自治会長を争った友人夫婦、それから可愛い野良猫に至るまで、Oveを取り巻く多くの人々でした。

心を閉ざしたままでは、生きられない。人とのかかわり合いの中には、喜びや悲しみだけでなく摩擦や面倒なこともある。それが人生ってもので、生きていることの何よりの証だ。1人では生きられないし、1人で生きているつもりでも、実は様々な人を支えたり助けたり、逆に支えられたり助けられたりしている、そしてそれが案外いいものなんだと思うのです。


by amore_spacey | 2019-03-01 01:20 | - Other film | Comments(0)

ヒトラーへの285枚の葉書 (Alone in Berlin) 

私のお気に入り度 ★★★☆☆ (78点)

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【あらすじ】 1940年6月、フランスがドイツに屈して間もなく、ナチス政権下のベルリンで慎ましい生活を送るOtto(Brendan Gleeson)とAnna(Emma Thompson)夫妻は、一通の書状を受け取った。それは最愛の一人息子Hans(Louis Hofmann)が戦死した知らせで、二人は悲しみのどん底に沈んだ。
 息子を奪ったAdolf Hitler総統や戦争が許せないOttoは、葉書に怒りのメッセージをしたため、街の一角にこっそり置き残すというレジスタンス運動を始める。当初Annaは夫の身を案じて反対したが、次第に協力して活動するようになった。史実を基に書かれたHans Falladaの小説『ベルリンに一人死す』を映画化。(作品の詳細はこちら


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Vincent Perezが監督・脚本を担当して、Daniel Brühlが出ているんですって?これは、素通りできません。建前と本音の狭間で葛藤し揺れ動くEscherich警部の役は、Danielの十八番(おはこ)だから、どうしてもやって欲しい役どころ。予想通り期待を裏切らない演技を、堪能させてもらいました。Danielが出てくるとほっとするのは、彼が基本的に善意の人だからかもしれない。究極の選択を迫られると、正義を選び、また弱者の味方になってくれる。今回も上層部からの命令に従いつつ、捜査を進めるうちに独裁政権への疑念を強めていったEscherich警部は、命令と良心の板ばさみになって悶々とする。窮地に立たされたDaniel、さあ、どうする?彼ってホントに不器用だから、見ていてハラハラします。長いものに巻かれて要領よくやっつけて、逃げ切ればいいものを。だけど哀しいかな、彼にはそれがどうしても出来ないんです。割り切れない。苦悩の末、彼が選んだのは、Otto夫婦の意志を汲み取るもので、これは独裁政権を切り崩す小さな1歩になったに違いありません。暗澹たる世の中に人々は絶望していたけれども、実は水面下で善なる動きが密かに広がっていたのです。

「息子を返してくれ!」 一人息子を失った夫婦は、悲しみ以上に独裁政権への憤りが強く、ナチスに対する疑念がいつしか確信へと変わる。しかしよくよく考えてみると、息子を死に追いやったHitler率いる独裁政権を選んだのは、当の自分たちではないか!という事実に愕然とし、自責の念に苦しむ。これらの割り切れない気持ちを託した葉書きを、1枚また1枚と街中に置き続けたOtto夫妻の行為は、決して無駄ではなかったと思う。太平洋にたった一滴のインクを垂らすようなもので、ヒトラー政権を追い詰めるのには微々たるものだが、繰り返せば誰かの目にとまって共感を呼び、ひょっとしたら何かが変わるかもしれない。いずれは発覚し逮捕されて、処刑されることが分かっていても、何かをやらずには居ても立ってもいられない。こうでもしなければ、息子が浮ばれないではないか。地味な行為を、来る日も来る日も愚直に続ける。言葉少なで静かな佇まいでありながら、Otto夫妻は鋼のような力強さに満ちていました。


by amore_spacey | 2019-02-24 00:14 | - Other film | Comments(2)

スティング (The Sting)

私のお気に入り度 ★★★★☆ (86点)

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【あらすじ】 1936年。シカゴの下町で、詐欺師のJohnny Hooker(Robert Redford)とHenry Gondorff(Paul Newman)とLuther Coleman(Robert Earl Jones)が、通り掛かりの男をヒッカケて金をだまし取る。しかし彼らが手にしたその金は、いつもとは段違いの思わぬ金額だった。悪い予感は的中。その金は、ニューヨークの大物Doyle Lonnegan(Robert Shaw)の手下が、賭博の上がりをシカゴへ届ける為の金だったのだ。怒った組織は、仲間の一人であるLutherを殺害する。(作品の詳細はこちら


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日本に里帰りしていました。おなじみの機内上映は何本か観たのですが、昨年11月の記憶は遥か彼方に飛び去り、心に残っているのはこの作品と日本映画の2本だけ。とても簡単ですが、レビューを書き残しておきます。

これは何度観ても楽しめますね。初めて観た時には、意表を突くどんでん返しに、物凄い衝撃を受け、勧善懲悪と言いますか、まぁ誰もがグレーな人たちなんですが、敵をぎゃふんと言わせた見事な手口に、ひたすら唸りました。爽快なオチに、こんな面白い映画があるのかぁ。だから映画はやめられません。


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主役の2人がダンディで男前、30年代の素敵な色彩やファッション、ポイントは帽子とトレンチでしょうか。雨の中、目深に被り、襟を立てて歩く姿は、彼らだからこそ似合う。その辺の男がやっても、ちょっと、ね。。音楽も軽快で、ストーリーの面白さを引き立ててくれる。詐欺師が頭脳でギャングを出し抜く…何とクールで粋なんでしょう。


by amore_spacey | 2019-02-14 00:50 | - Other film | Comments(0)

ホルテンさんのはじめての冒険 (O' Horten)

私のお気に入り度 ★★★★☆ (80点)

ネタばれあり!

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【あらすじ】 ノルウェーの首都オスロと第2の都市ベルゲンを結ぶベルゲン急行の運転士Odd Horten(Baard Owe)。勤続40年、67歳の彼は、とうとう定年退職の日を迎えることになった。仲間たちにその功績をたたえられ、恥ずかしながらも祝いの席に招かれた彼は、人生最後の運転をするはずだった翌朝、あろうことか人生初の遅刻をしてしまうのだった。(作品の詳細はこちら


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冒頭のシーン、Hortenさん(名前の響きが可愛らしい)が運転士を勤めるベルゲン急行が、あたり一面真っ白の雪原を、一本の赤い線となって走る雄雄しい姿や、幾つものトンネルを抜け車窓から見えるモノトーンの景色が、印象的だ。Hortenさんをはじめ登場するのはほぼ初老の人ばかりで、ゆっくりとしたテンポで進んでいく。会話は少なく大事件が起きる訳ではないけれど、突飛なことをやらかす人間が出てきたり、みんなどこか間が抜けていたりして、クスっと笑える。そこに生真面目で頑固なキャラが加わると、意図しない面白味が滲み出て、『キッチン・ストーリー』でも感じたような、北欧独特の空気が醸しだされる。


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定年を迎えたHortenさんは、40年間オスロとベルゲンの間を、脇目もふらず往復し続けた。これが彼の仕事人生だ。しかし淡々と生きてきた彼が人生の節目にきて、思うところが色々あったのだろう。この作品はそんな彼が、生まれて初めて自分に挑戦した物語だ。気負わず自然体で、勇気ある一歩を踏み出す。ジャンプ台の向こうに広がる夜景はとびきり美しく、今まさに飛び立とうとする彼を、ふんわり包み込んでくれるかのようだ。あのシーン、Hortenさんが大失敗するんじゃないかって、ちょっとドキドキしました。


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Hortenさんは定年最後の日に様々な人と出会い、今まで知らなかった世界に触れて、新たな道を模索していく。制服を脱ぎ、初めて普段着姿で登場した彼は、実にいい表情をしていました。これは人生の節目や転機に、そっと背中を押してくれる作品ですね。



第三回プラチナブロガーコンテストを開催!
by amore_spacey | 2018-11-20 02:03 | - Other film | Comments(4)

ファイティング・ダディ 怒りの除雪車 (Kraftidioten)

私のお気に入り度 ★★★★☆ (80点)

ネタばれあり!

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【あらすじ】 ノルウェー中部の小さな町に暮らす除雪車の運転手Nils(Stellan Skarsgård)は、妻と大学生になったばかりの息子の3人家族で、ささやかに暮らしていた。しかしある日息子が急性薬物中毒で死んだと知らされる。麻薬常習者ではない息子の死因に疑問を抱いたNilsは、調査を進めていくうちに、地元の麻薬組織絡みの犯罪であることを突き止めた。そして息子を殺した麻薬組織に復讐すべくたった1人で奔走するが、それが地元のギャングのボスCount(Pål Sverre Hagen)とセルビア系マフィアのボスPapa(Bruno Ganz)の間に火をつけ、Nilsは麻薬抗争に巻き込まれていく。(作品の詳細はこちら


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ノルウェーの上質なB級ブラック・コメディ。適度に緊張感があり、その端々に独特のブラック・ユーモアを挟む。ここで笑わせてやろうという魂胆はまるでなく、本人たちは大真面目だから、ギャップが却って可笑しい。それから韓国や日本の裏社会の抗争は、血や汗にまみれて汚い感じがするのに、真っ白な雪に覆われた舞台で繰り広げられる北欧の抗争は、語弊を招く言い方ですが、クールできれいな印象さえ受ける。あくまでも、印象、です。実際は血まみれ汗まみれなんですけどね。苦笑


人が死ぬたびに画面が暗転して、十字架・あだな・本名のフルネームが掲げられる。これがとても斬新。一瞬しか出てこないような、「お前、誰だっけ?」な人まで弔うかと思えば、大量死を十把ひとからげで弔ってやるこの大雑把さ。滝から落とされる瞬間、死体が「アーーー」と叫んでいるように見えるのも、ブラック・コメディの流れだからだ。


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一癖も二癖もある登場人物ばかりだが、中でもギャングのボスCountは強烈だ。ギャングと言ったら肉食系だろ?なのに彼ときたら、超真面目な菜食主義者。だが頭に血が上りやすく、ピストルぶっ放して部下を殺してしまう。妻との離婚訴訟もなかなか進まず、常にピリピリ&イライラ。チンピラ上がりで、肝っ玉が小さく薄っぺらい男だ。


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駄々っ子のようなCountとは対照的に、Papa(Bruno Ganz)にはマフィアのボスらしい風格がある。が、妙に臆病だったりするから、そのアンバランス加減が笑える。成り行き上Nilsの除雪車に乗り込んでしまってから、Nilsが自分の敵なのか味方なのか分からず、挙動不審になるPapa。ボスだったらもっと毅然としてくれよ。『ヴェニスに 恋して』から年月が経って随分老けたが、飄々としたBruno Ganzの持ち味は今なお健在で嬉しい。



第三回プラチナブロガーコンテストを開催!
by amore_spacey | 2018-11-13 01:08 | - Other film | Comments(0)

Un coeur en hiver (愛を弾く女) 

ネタばれあり!

私のお気に入り度 ★★★☆☆ (72点)

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【あらすじ】 美貌の新進ヴァイオリン奏者Camille(Emmanuelle Béart)は、ヴァイオリン工房を経営するMaxime(André Dussollier)と不倫の仲である。Maximeと組んで一緒に仕事をするStéphane(Daniel Auteuil)は、音に関して優れた感覚を持っており、Camilleの持ち込んだヴァイオリンの魂柱をわずかに細工しただけで、彼女の望み通りの音を生み出して驚かせた。自分に注がれるStéphaneの強い視線を意識し、Maximeとでは味わえない高揚感に、CamilleはMaximeに別れを告げ、Stéphaneに愛を告白するが、彼は「君のことを愛してはいない」と言う。(作品の詳細はこちら


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この作品の主人公はStéphane。一歩踏み込んで人間関係を深めることを恐れる(嫌う?)屈折した心の内を、様々なエピソードと共に綴っている。彼の繊細な心や研ぎ澄まされた感覚は固い殻で覆われ、なかなか掴みづらく、寡黙な彼の口から出てくる言葉は、ぶっきら棒で愛想がない。頭の中では何千ものことを考え、心の中でどんなに葛藤や悲しみに苦しんでいても、口から出るのは、「愛していない」の一言。その説明や言い訳もないから、言われた側は衝撃的で辛い。

Stéphaneの相手が、天才的にその場の空気が読める人だったり、包容力のある人間性豊かな人だったり、逆に全く無頓着で鈍感な人だったら、あんな修羅場にはならなかったでしょう。が、相手はCamille、音楽で自己表現する情熱的な女性です。自分の気持ちに嘘がつけない。一歩踏み出したら、もう止められない。Stéphaneへの愛を抑えきれなくなり、情熱に身を任せて押しまくって来る。狂おしいまでの激しさで、彼に迫ってくるのだ。Stéphaneの気持ちも知らないで…。炎と氷の対決ですが、結局彼は自分の世界にとどまることを選んだ。


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そう考えるとHélène(Elizabeth Bourgine)は彼にとって、気の置けない女ともだちだったのではないかしら。彼女もStéphaneタイプの人間で、他人の領域にズカズカ踏み込んで来ないが、話はきちんと聞いてくれて、的確なアドバイスもくれる。

いびつな彼を丸ごと受け止めたのは、恩師のLachaume(Maurice Garrel)だ。恩師の前では、素の自分でいられる。その恩師の最期の願いを聞き入れることが、真の愛情というもの。安楽死の注射を誰も出来なかった中で、無言のまま注射を打ったStéphaneは、罪悪感に咎められることなく、開け放った窓から青空を見上げる。2人の絆は永遠だ。


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理解に苦しんだのは、愛する女性が友人の事を好きだと感づいた場合、普通なら嫉妬を覚えるはずだが、Stéphaneに彼女を譲ろうとしたMaximeの意図だ。他の男に心を奪われた女性と関係を続けても、カッコ悪いし虚しいだけだから?これがフランス的なスマートさなんですか? 「お前、いい加減に目を覚ませよ」と言わんばかりに、MaximeがStéphaneを殴りつけるシーンも、「愛に縁遠いお前を思い遣って…」という愛のムチだったのか。Maximeはクールで洗練されているし、恋愛経験も少なからずありそうだ。そんな彼が仕事仲間・友人として一目置くStéphaneのことを、頼りない弟のように気がかりになるのも分かる。でもこういう余計な配慮を、私はして欲しくないな。空気を先読みして、勝手なことをしないで下さい。


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スタジオ録音の休憩時間にStéphaneとCamilleがビストロに行くシーンは、とても小粋で素敵でした。早く先に進みたいという熱い思いで雨を見上げる彼女、自分とは関係のない世界を薄いベール越しに見ているような彼。軒下で雨宿りする2人には、この先交差することのない前兆が、この時すでにあったのだと思う。実生活での彼らが2年で離婚したのも、同じような経緯があったのかしら?



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by amore_spacey | 2018-11-11 02:38 | - Other film | Comments(4)

追想 (On Chesil Beach)

ネタばれあり!

私のお気に入り度 ★★★☆☆ (72点)

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【あらすじ】 1962年夏、歴史学者を目指すEdward(Billy Howle)と若きバイオリニストFlorence(Saoirse Ronan)は、結婚式を終え新婚旅行でドーセット州のChesil Beachを訪れていた。ビーチ近くのホテルの部屋で食事をする新婚の2人は、初夜の興奮や不安などさまざまな感情に襲われる。会話が緊迫して気まずい空気になり、2人は口論を始めてしまう。ホテルを飛び出して行ったFlorenceをEdwardは追いかけるが…。Ian McEwanの小説を映画化。(作品の詳細はこちら


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新郎新婦がどちらも初体験で、しかも新婚初夜の描写にかなりの時間が割かれている。となると、緊張のあまり彼らがぎこちなくなればなるほど、突っ込み所も増え、撮り方によってはコメディになりかねない。紙一重のところで若い2人の気持ちに寄り添っているが、彼らが新婚だと知って、ちょっと舐めた感じで給仕をしたり部屋を出ると笑っていたルームサービスのスタッフたちは、全くの部外者だからつい茶化したくなるってもんです。2人のぎこちなさや間の悪さに、何か、こう、もどかしくイライラしてじれったくて、私も突っ込みながら観ていました。

性がタブー視された閉鎖的・保守的な時代だったとはいえ、もし彼らがあっけらかーんとした楽天的な性格なら、初夜の失敗を笑って済ませたのではと思う。ところがこの2人の結婚生活は、それが原因で一晩で破綻した。心身ともに未熟で、生真面目すぎたんでしょうね。Edwardは教師の息子で母親は事故(あのシーンには笑った)で脳に障害があり、長男の彼は彼女の奇行に翻弄されてきたから、やや情緒不安定で寡黙だ。Florenceは裕福な企業経営者の娘だが、父親は傲慢で有無を言わせず、母親からは母性愛を感じられない。2人が育った家庭には、彼らの人格形成に影を落とすような環境があったことは確かだ。FlorenceもEdwardのことをとても愛していたが、それとなく下に見ていた節(ふし)がある。彼女のクールなところは、ツンとすました母親にも似ている。


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そしてビーチでの2人。切なくなるような曇り空に細長くのびる砂嘴、足をすくわれそうになる玉砂利のビーチ、木の舟にぽつんと座ったFlorence、向こうからゆっくり歩いてくるEdward。とても印象的なシーン。しかしここが、修羅場の舞台となる。抑えていたものが一気に噴出し、互いに激しく口論。ヒートして相手を思いやる余裕などなく、取り返しのつかない言葉を投げ合う。愛していると言いながら、結局は自分のことしか考えられない。あのシーンの少々高圧的な彼女は、傲慢な父親の姿にそのまま重なる気がする。


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何度か出てくる、Florenceが舟の上で父親に厳しく叱咤されているシーンは、父親の性的虐待を匂わせるようだけれど、これに関してはそれっきりなので、彼女の断片的な思い出の1つとして取り上げられたに過ぎないのか?性的虐待が実際にあったのか?はっきりしない。どちらにしても高圧的な父親のもとで、彼女は萎縮して育ったのは明らかだ。破綻した原因や責任は両者にあると思うが、私はEdwardがちょっと可哀相でならない。と言うより、Florenceという人間が、よく分かりません。13年後と35年後の2人のシーンは、必要なかったのでは。年月を経てもEdwardはFlorenceのことを忘れていない、それどころか時間薬で過去の苦い思い出は美化され、彼女に対する淡い思いを引き摺っている。それが言いたかったのか?意図がはっきりしない。

Bach・Haydn・Mozart・Beethoven・Schubert・Rachmaninovの室内楽や交響曲が素晴らしく、とても居心地の良いひとときを過ごすことができたので、音楽だけならお気に入り度は100点満点。



第三回プラチナブロガーコンテストを開催!
by amore_spacey | 2018-11-09 01:12 | - Other film | Comments(0)

幸せになるためのイタリア語講座 (Italiensk for begyndere)

ネタばれあり!

私のお気に入り度 ★★★☆☆ (76点)

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【あらすじ】 妻を亡くした若者Andreas(Anders W. Berthelsen 岡田准一に似てる?)は、臨時の牧師として教会に配属された。ホテル住まいの彼は、中年のJørgen Mortensen(Peter Gantzler)に会う。Jørgenの友人Finn(Lars Kaalund 『ホームランド』のRupert FriendやOrlando Bloom似のちょいイケメン)はレストランのマネージャーだが、とても怒りっぽい。Finnのアシスタントは、愛らしい若いイタリア人Giulia。ちょっぴり不器用なOlympia(Anette Støvelbæk)はベーカリーの店員で、わがままな父親がいる。美容師のKaren(Ann Eleonora Jørgensen)には、病気の母親がいる。
  彼らは地元のイタリア語講座を通じて出会い、それぞれが抱える孤独や喪失感や悲しみや絶望を乗り越え、恋や将来の希望を見出していく。第51回ベルリン国際映画祭で、銀熊賞など計5部門を受賞。(作品の詳細はこちら


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オープニングから、居心地の悪い雰囲気が漂う。みんなの表情が暗く疲れている。夫々が背負っているものにある種の絶望を抱きながらも、自分の気持ちを抑えて淡々と暮らしている。いい歳した大人が生きることに不器用で、危なっかしくて仕方がない。そこから抜け出ようともしなかった(出来なかった)が、週に一度のイタリア語講座に参加する辺りから、状況がゆるやかに変わり始める。


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そしていつの間にか登場人物たちが、みんな幸せそうな表情になっているのです。きっかけはイタリア語講座だったが、実は彼らの中にある友情や肉親への愛情や淡い恋心が、希望ある未来に導いてくれたのだと思う。他者へのちょっとした気遣いに、私たちはほとんど気がつかないまま過ごしているが、それらが未来への明るい伏線となっていくのだ。そしてそこから一歩踏み出せば、道は必ず開ける。そう、自分次第なんです。と言いながら、Olympiaの父親のような暴言を吐かれたり、Karenの病気の母親のように職場に来られたりしたら、たぶん私は切れて、啖呵を切っちゃいますねェ。


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因みにイタリアに嫁いで来るまでは、この国に対して明るくポジティブなイメージが強かった。どちらかというと私は北欧タイプなので、大丈夫かしら?ここでうまくやっていけるかしら?なんて不安を抱いたものです。が、地域や育った環境や受けた教育(究極はその人の人間性に尽きるのですが)により、当たり前のことだが様々なタイプの人がいるので、当然波長が合ったり合わなかったりする。

そんな彼らも、親や友人そして自分自身と折り合いが合わず葛藤したり、いつか必ず訪れる死や乗り越えねばならない問題に苦悩したりと、誰も彼も何がしかの問題を抱えて生きている。でも大丈夫、きっと何とかなるさ。人生は1度きりなんだから、今を楽しまなくちゃ。問題を解決しながら、必要以上に悲観的にならず、自分の人生も大切にする。そんなイタリア人気質が好きだ。ヴェネチアにやって来たKarenたちの生き生きとした表情に、私まで嬉しくなりました。



第三回プラチナブロガーコンテストを開催!
by amore_spacey | 2018-11-05 17:06 | - Other film | Comments(0)

戦場のピアニスト (The Pianist)

私のお気に入り度 ★★★★☆ (86点)

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【あらすじ】 1940年、ドイツ占領下のポーランド。ユダヤ人のラジオ局ピアニストWladyslaw Szpilman(Adrien Brody)は家族と共にゲットーへ移住した。やがてユダヤ人の収容所移送が始まったが、家族の中で彼だけが収容所行きを免れる。空爆を受けたワルシャワの廃墟の中、食うや食わずの潜伏生活を送るある日、彼はドイツ人将校Wilm Hosenfeld(Thomas Kretschmann)に見つかってしまった。Wladyslaw Szpilmanの自叙伝『ある都市の死』(Śmierć miasta)を映画化。2002年のカンヌ映画祭でPalme d'Or、2003年のアカデミー賞の監督賞・主演男優賞・脚本賞を受賞。(作品の詳細はこちら


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先日の夜、ふっとまた『真夜中のピアニスト』を観ていたところ、ピアノの音色から本作品のことを思い出し、再鑑賞しました。Szpilmanを演じたAdrien Brodyの父Elliotはポーランド系ユダヤ人、母Sylviaはハンガリー&チェコ系ユダヤ人で、父はホロコーストで家族を失い、母は1956年のハンガリー動乱の時にアメリカに亡命していたことを、鑑賞後に調べて知りました。

Adrienにとってホロコーストは、自分の人生の一部のようなもの。「撮影中は本当に疲労困憊(こんぱい)した体験だった。その後の1年間は極度の鬱状態にあった」とコメントしているが、それは想像を絶する辛さがあったと思う。運が良かったと言うしかない、とても運に恵まれていた。しかしそれが却って、恨めしい。あれほど生きることに必死だったのに、自分だけ生き残った罪悪感や申し訳なさに苛(さいな)まれ、ホロコーストの悪夢にうなされ続ける。可哀相にあの頃のAdreinは、21世紀に生きながらホロコースト真っ只中の日々を送っていたのだ。


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事実を受け入れることしかできない一市民を、Adrienは抑えた演技で見事に体現したと思う。一家離散のあと必死に生きのびようとする姿や、代役なしで臨んだピアノ演奏シーンは圧巻だったし、ドイツ人将校たちの吐き気のするような暴虐ぶりや、廃墟となったワルシャワの町などは、映画のセットとは思えないほど臨場感に溢れていた。

また1個のキャラメルを売り歩く子どもを見た父が、「こんな状況の中で金を稼いで何になる」と言いながらも、キャラメルを買い求め、6人の家族のために等分するシーンや、ドイツ将校と出会う前に見つけたピクルスの缶詰を、片時も手放さないSzpilman。目前に迫っている悲劇をおぼろげながら知りつつも、何とかして生き延びたい彼らの生への貪欲さが、これらのシーンに凝縮されて、居たたまれなくなった。生きる、これは人間の本能だ。


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冒頭のノクターン第20番、終盤のバラード1番、そしてエンドロールを飾る華麗なる大ポロネーズ。ショパンは、ポーランドに生きるすべての人々に愛される音楽家なのだなと、あらためて思った。ドイツ将校の前での演奏は、今まで黙って背負い込んでいたものを全て表に出すかのような、音に委ねた彼の独白だったに違いない。終戦後、再びラジオ局でノクターン第20番を弾く時の、彼の表情が忘れられない。解放の喜びも束の間、無念の思いに感極まる。それをそっと押し殺して弾き続ける彼に、胸が押しつぶされそうになりました。


by amore_spacey | 2018-11-02 01:21 | - Other film | Comments(2)