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四十九日のレシピ

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【あらすじ】 判を押した離婚届と結婚指輪を残して、百合子(永作博美)が実家に戻ると、人生の晩年を迎えて突然、妻・乙美の死によって独り残された父・良平(石橋蓮司)は、畳の上に呆然と寝転がっていた。
 そこへ派手な服の女の子・井本(二階堂ふみ)と日系ブラジル人ハル(岡田将生)が現れ、4人の奇妙な同居生活が始まる。彼らは乙美のために四十九日の大宴会を計画するのだった。伊吹有喜の同名小説をもとに映画化。(作品の詳細


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何年か前に鑑賞していますが、日本特有のあの空気が懐かしくて、また観ました。百合子の母の死を機に、母が遺したレシピを拠り所にして、家族や周りの人々がそれぞれの形で、人生をやり直そうとする姿を描いています。突っ込み所も多々ありますが、実力もあるがクセも強い主役級の役者が揃い、言葉にならない心の機微や気持ちの微妙な変化を、巧みに体現していました。

形は違っても百合子のような心の葛藤を、誰しも一度は抱くものではないかなと思います。彼女の苦しみや悲しみ・絶望や迷いが、ヒリヒリと痛々しくて。けれどそれを乗り越えた時に見せた表情が、何だかとてもよかった。あれは旦那(原田 泰造)が酷すぎるんだけどね。こういう何気ない役が、永作博美はうまい。日常のありふれた幾つもの出来事の中で生じる、人の内面の微かなゆらめきをも、余すところなく演じてみせてくれます。

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百合子を見守る父・良平を演じた石橋蓮司が秀逸で、彼が出てくるたびにうるうる、泣けました。無骨で典型的な頑固オヤジだけど、娘を思いやる気持ちは海よりも深い。何気ない言葉や仕草に彼の人情味が垣間見えて、気持が揺さぶられる。岡田将生の日系ブラジル人は唐突ですな。二階堂ふみのぶっ飛んだキャラが、この物語をぐいぐい引っ張っていってくれました。


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母の遺言どおり四十九日の大宴会は、伝統とはかけ離れた型破りなスタイルで、これから何が始まるんだろうとワクワク。最初は空白だらけの乙美の人生年表が、訪れた人々の手によって、徐々に空白が埋められていくシーンに感動しました。いい見送り方だなぁ。

大ベテランの淡路恵子が、ひと癖もふた癖もある、嫌味な叔母を好演しています。Maggie Smith のように、敢えて空気を読まず辛らつで毒舌だけど、意地悪なだけじゃない。あれが彼女なりの、励まし方ですね。バターラーメンやコロッケパンやちらし寿司が、本当に美味しそう。今すぐにでも食べたい。様々な人々や食べ物が、やさしく心を包んでくれる作品でした。


# by amore_spacey | 2025-10-14 01:00 | Japanese film | Comments(4)

ギャングスター (Gangsters)

ネタばれあり!
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【あらすじ】 前科者ギャング Franck Chaievski(Richard Anconina)と、彼の情婦 Nina Delgado(Anne Parillaud)。彼らはパリ警察署の腐敗を暴くため、フランスの特殊部隊から送り込まれた警官である。
 そんな中パリで、1億ユーロ相当のダイアモンド原石を積んだ輸送車が襲われ、7名が死亡する強盗事件が起きた。Franck と Nina は、囮(おとり)捜査に乗り出す。(作品の詳細はこちら


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Anne Parillaudの1人祭り。Olivier Marchal 監督は、10年ほど警察に勤務しながら、その合間に演技のレッスンを受け、クライムサスペンス映画に出演するようになるという、ユニークな経歴の持ち主で、長編デビューとなる本作品では、脚本・監督を務めている。

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警察時代の経験を生かして、組織内の腐敗をテーマに、汚職刑事と潜入捜査の刑事たちの、緊迫した攻防戦を描いています。捜査する刑事たちが、取り調べる相手から逆に捜査されてしまう、というちょっと複雑な構図から、最後の最後に究極のワルは誰か?2人がどういう立場の人間だったのか?種明かしされるまでの過程が、最大の見所になるはずでした。が、何だか盛り上がりに欠けまして。

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まぁ、それにしてもフランスの刑事モノに出てくる刑事や警官たちというのは、人相が悪いですねぇ(꒪ᗜ꒪ ‧̣̥̇) この種の仕事に携わっていると、否応なく顔つきが鋭くなっていくのかしら。ずんぐりした中背のおじさんばかり登場して、目の保養になるイケメンがいないのね。それが現実で、真実味は十分にあるけれど、ちょっとむさ苦し...渋すぎるかなぁ。


# by amore_spacey | 2025-10-10 00:05 | Other film | Comments(2)

罪の声

少しネタばれあり!
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【あらすじ】 35年前に日本中を震撼させ、未解決のまま時効を迎えた、劇場型事件「ギンガ・萬堂事件」。大日新聞記者の阿久津英士(小栗旬)は、文化部記者ながら、昭和の未解決事件を特集する特別企画班に入れられ、戸惑いつつもこの「ギン萬事件」の取材を重ねていく。
 一方、京都で紳士服のテーラーを営む曽根俊也(星野源)は、父の遺品の中に古いカセットテープを発見し、自分の声が「ギン萬事件」で使われた、脅迫テープの声と同じことに気づいて、大きく動揺する。やがて運命に導かれるように2人は出会い、ある大きな決断へと向かう。塩田武士の同名小説を映画化。(作品の詳細


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ずっしり手応えのある作品で、観終わったあと余韻に浸りながら、登場人物に思いを巡らせました。様々な感情が入り乱れ、熱いものが胸にじわじわ迫ってくる。辛くてやり切れないのに、それが不思議にも不快感ばかりではない。苦しみや絶望だけでなく、温かさや希望があるからでしょう。

犯人を捜すドキュメンタリードラマかと思い、漫然と観ていた。が、自分の声を使われて、この事件に巻き込まれた、子どもの人生に焦点を置きながら、新聞記者の未解決事件の真相追求も並行させ、2つの視点から事件に迫っていく。

また犯罪を企てた者と、犯罪に巻き込まれた者の双方が、新聞記者を仲介して、徐々に距離を縮めていく。この構成が起伏に富んだ、見応えのある作品にしており、持続する一定の緊張感の中で、まばたきするのも惜しいほど、次の展開が待ち遠しい。

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父の遺品の中のカセットテープ。これを聞いたことで、パンドラの箱を開けてしまった。のですが、災いだけではなかったと思うのです。新聞記者の阿久津にとってこの事件は、曽根に問われた「事件を追うことの意義」を見つけるものでもあり、他の人々にとっても、単に当時を蒸し返されただけではなく、家族や人生の不条理で割り切れないものを、許して受け入れようと葛藤する、希望への一歩があったのではないかと。

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昭和最大の未解決事件のグリコ・森永事件が題材で、キツネ目の男の似顔絵を今でも覚えていますが、その経緯や詳細を、実はほとんど知りません。経済的な動きが背後にあった(リスクの高い現金受け取りではなく、被害企業の風評により株価下落を創出し、空売りしていた株を安値で買い戻す犯人の手口)というドラマ設定には、目からうろこでした。あり得ない話ではない。

未解決大事件を題材に、こんなストーリーを思いついた、塩田氏の着眼点に唸ります。脚本・演出・監督・キャスト・音楽…のどれをとっても素晴らしく、小栗旬や星野源が、噛みしめるように味わい深い演技で物語を彩っています。

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それにしても関係者の生い立ちが、あまりにも衝撃的でやるせない。宇野祥平の役への意気込み(役作りで10kg以上減量)や、表情・佇まいに、鳥肌が立った。歳を重ねた宇崎竜童、渋くてめっちゃカッコいい。登場人物が多いのに、さほど混乱せず話についていけたのは、人物描写が的確で印象的だったから。これは繰り返し観たい作品です。


# by amore_spacey | 2025-10-06 01:04 | Japanese film | Comments(2)

名誉と栄光のためでなく (Lost Command)

ネタばれあり!!!
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【あらすじ】 1954年、インドシナでの戦いで Raspeguy 中佐(Anthony Quinn)率いる仏軍は、ベトナム軍に敗れ捕虜となった。休戦協定の締結後、中佐をはじめ Esclavier 大尉(Alain Delon)や Boisfeuras 大尉(Maurice Ronet)たちは、フランスへ送還され、パラシュート部隊は解散する。しかし Clairefons 夫人(Michèle Morgan)の口添えにより、中佐たちは新たなミッションに就く。
 任地はフランスからの独立を目指すアルジェリアの激戦地、所属はパラシュート連隊。Raspeguy はかつての部下たちを集め、危険な戦地に乗り込む。激しい攻防が続く中、激情的な Raspeguy と戦争に懐疑心を抱く Esclavier は、捕虜の扱いをめぐって対立を繰り返し、次第に反目を深めていく。元フランス軍将校で従軍記者だった、Jean Lartéguy の同名小説をもとに映画化。(作品の詳細


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Claudia Cardinale 追悼と Alain Delon の1人祭り。
冒頭からディエンビエンフー陥落(ベトナム)の、激しい戦闘シーンが繰り広げられます。大量の爆薬がドッカンドッカン爆発し、銃剣や手榴弾や機関銃による、派手な戦闘アクション。

劣勢の仏軍のパラシュート部隊が降下中に、ベトナム兵から狙い撃ちされたり、無事に地上に着いても、銃剣でメッタ突きになり、血まみれで容赦無い。この作品も『レッド・サン』同様、スペインのアンダルシア地方で撮影された。

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貧しい農民生まれの Raspeguy 中佐は、高官にまで上り詰めた、カリスマ性のある職業軍人で、Anthony Quinn にピッタリの役どころ。指揮官としては豪胆で有能だが、出世や名誉に固執し、戦いには勝つのみという執念の人。彼と気の合う実業家 Boisfeuras 大尉も、目的達成のためなら手段を選ばない職業軍人。

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Alain 演じる Esclavie r大尉は、歴史学者で隊内唯一の良識人だが、得体の知れぬ商売女(Aicha)に騙され、部隊や戦局をすら危機に陥れてしまう。またかつては戦友だった Mahidi(George Segal)の扱いに、深く悩み葛藤する。軍人の資質には欠けるが、、、Alain は何をやっても何を着てもカッコイイ。短髪に日焼けした精悍なAlain、ベレー帽や軍服や戦闘服が、良く似合います。

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ベトナムではフランス人部隊として、中佐たちと共に戦った Mahidi(George Segal)。故郷のアルジェリアに戻ると、フランス植民地勢力に対する革命に参加し、かつての戦友たちに反旗を翻す。兄を救うため Aicha(Claudia Cardinale)は、Esclavier 大尉を恋に落として利用する。

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ベトナムでの敗戦で解任を恐れた Raspeguy 中佐は、アルジェリアで軍人としての使命を果たし、思いを寄せる Clairefons 夫人の前で勲章を受け、幸せの絶頂である。その様子を眺めながら Esclavier 大尉は、名誉や栄光欲しさの非人道的行為に嫌気がさし、除隊して去っていく。互いを見つめるラストシーン、それでも一度は信頼し合った戦友の情が、一瞬流れたように思いました。


# by amore_spacey | 2025-10-02 00:09 | ┗ Alain Delon | Comments(4)

大空港2013 TVドラマ

少しネタばれあり!
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【あらすじ】 帰省先から東京に帰るはずだった田野倉一家の乗った飛行機が、天候不良のため松本空港に到着する。そこでグランドスタッフの大河内千草(竹内結子)が、田野倉家の案内を担当することになった。彼女はその日の朝、上司(甲本雅裕)からプロポーズされ、返事を保留していたのだった。
 件の田野倉家の主・守男(香川照之)は、家族の目を避けて百合子(戸田恵梨香)という女と密会し、守男の妻・美代子(神野三鈴)は、学生時代の後輩でパイロットになったタチバナ(オダギリジョー)と再会する。空港を舞台にワンシーン・ワンカットで撮り上げたシチュエーションコメディー。(作品の詳細


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葬式帰りの家族が、緊急着陸した地方空港で引き起こす数々のエピソードを、オムニバス形式で展開させた作品。超豪華なキャストの卓越した演技によって、空港の待合室にいるかのような臨場感にあふれていました。家族みんながそれぞれ事情を抱えており、家族自分を守るためにウソをつく。ウソの上塗りが泥沼化していく様子が、もう可笑しくて涙出して笑った。

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人間観察の鋭い三谷監督だけあって、甲本雅裕・生瀬勝久・香川照之・綾田俊樹・オダギリジョー・池松壮亮と、曲者揃いの男性陣をうまいこと束ね、それぞれの個性も引き出されて、抱腹絶倒のエピソードにピッタリのキャスティングです。お家騒動をまとめる形の竹内結子が、凛として模範的なスタッフかと思いきや、野次馬根性丸出しで、田野倉家にさりげなく首を突っ込んでいく。何ともいい味出していましたね。

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地味で存在感の薄かったおじいちゃん(綾田俊樹)が、混乱に乗じて爆弾告白するシーンは、あの場に流れる空気と言い絶妙の間と言い、期待を裏切らない面白さでした。神野三鈴が演じた妻の美代子も、そうそう、こんな人いるよなぁと思わせてくれる。

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作品を鑑賞したあと、メイキングも観ました。映画TVドラマにエキストラ出演をした時、裏方の仕事を目の当たりにしましたが、いやいや、もう本当にメチャクチャ大変です。若手スタッフらは、早朝から晩まで走り回っていました。

今のところ日本で唯一無二のカメラマン、と三谷監督が絶賛する山本英夫さん(同郷人だなんて嬉しい)をはじめ、制作スタッフのチームワークの良さ、一人一人の映画への情熱や愛に触れて、目頭が熱くなってしまいました。メイキングもあわせてお勧めします。


# by amore_spacey | 2025-09-29 00:04 | Japanese film | Comments(0)