屋根 (Il Tetto)

ネタばれあり!

私のお気に入り度 ★★★★☆ (80点)

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【あらすじ】 第二次世界大戦後のローマ。戦後の混乱期は脱したものの、庶民にとって貧しい暮らしが続いていた。そんな中Luisa(Gabriella Pallotta)とNatale(Giorgio Listuzzi)の若いカップルは、Luisaの父親の反対を押し切って結婚し、Nataleの義兄Cesare(Gastone Renzelli)の家に同居させてもらう。しかし小さな家の大所帯で、仕切りも何もない狭い寝室に、ベッドを押し込んだ環境での新婚生活は、到底無理だった。
 やがて兄と喧嘩をして家を出た2人は、公共の土地に家を建ててしまえば、居住権が成立してそこに住み続けることが出来る、ということを知り、見習い左官のNataleは職場の仲間たちの協力を得て、一夜で何とか家を建てようと奮闘する。1956年カンヌ映画祭で特別賞を受賞。(作品の詳細はこちら


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この映画が制作されたのは1956年。4年後にローマ・オリンピック開催を控えており、中心街には高層団地が次々に建てられ、イタリアが一丸となって文化的な暮らしに向かっていた。が、大半の庶民は戦後の復興やオリンピック景気の恩恵から取り残されたままで、貧しい若い新婚夫婦が暮らせるような、小さなアパートすら見つけることが出来ないのが現状でした。


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しかし、ここはイタリア。『昨日、今日、明日』の第1話のように、法律を逆手に取ったり、法律の網目をくぐり抜けて、合法にしてしまうのはお手のものです。当時はそういったことに寛容だった時代背景があり、困っている人々に救いの手を差し伸べる、大半は損得を抜きにした、情に厚い庶民たちが大勢いた。同じ1956年作の『鉄道員』にもみられるように、LuisaやNataleのまわりには下町人情がまだ健在だったんですね。


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そして「一晩で家を建て屋根を葺けば、居住権が成立する」という法律を逆手にとり、Nataleたちは本当に一晩で家を建ててしまうから凄い。屋根の一部はまだ覆われていなかったから、完成とは言えない。が、これこそDe Sica監督が得意の人情劇ってもんで、見回りに来た警官たちが見逃してくれ、晴れて二人は一軒家を手に入れることが出来たのです。一軒家といってもおよそ10畳一間で、レンガを積んだだけの掘っ立て小屋に毛が生えたような家だ。しかし出来上がったばかりのこの小さな家を、二人が満足そうに眺めるラストシーンが、とても微笑ましく心温まる。慎ましく暮らす庶民の、ささやかな幸せの形だ。

Luisa役のGabriellaは児童用品店の店員、Nataleを演じたGiorgioはセリエCのサッカー選手(イケメン!)と、二人とも役者としてはズブの素人だった。が、もともと役者の素質があったらしく、De Sica監督の指導もよかったのだろう。心に残る素晴らしい演技を見せてくれた。第一印象が悪かった義兄Cesareも、若い二人のために最後は一肌脱いでくれて、なんか、いい奴だったな。


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# by amore_spacey | 2018-10-10 00:32 | - Italian film | Comments(0)

太陽がいっぱい (Plein Soleil)

ネタばれあり!

私のお気に入り度 ★★★★☆ (92点)

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【あらすじ】 貧しい家庭に育ったアメリカ人青年Tom Ripley(Alain Delon)は、息子のPhilippe Greenleaf(Maurice Ronet)を連れ戻してきてほしいとPhilippeの父親から依頼され、イタリアへ向かった。しかし美しい恋人Marge(Marie Laforêt)のいる富豪の息子Philippeは親の金で遊び回り、アメリカに戻る気などさらさらない。その一方でTomは、邪険な扱いをし無礼な態度をとり続けるPhilippeに怒りを募らせ、やがてそれは殺意に変わる。Patricia Highsmithの小説The Talented Mister Ripleyを映画化。(作品の詳細はこちら


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このブログを始めて間もない頃にレビューを書いたのですが、読み返してみるとあまりにも雑だったので、書き直しました。これはAlainと私の出会いの作品で、彼のファンだった母と一緒に、小学生の私が初めて彼を見て、一目惚れしてしまった。「何と言うハンサム(当時はイケメンという言葉はなかった)な役者なんだ!」と。ドラマチックなオープニングロール、舞台となったイタリアの町や青い地中海、Margeの名前のついた白い巨大なヨット、Nino Rotaの哀愁を帯びたメロディ、何もかもが田舎の小学生には目新しくて素晴らしかった。イタリアの港町やメルカート(エイの姿は微妙だったけど)にも魅了されました。

カメオでちゃっかり出演している監督は、当初あまり演技実績の無いAlainを起用することに消極的だったらしい。また音楽担当のNinoは、作曲に対する監督の態度に立腹したというエピソードも残っているが、『太陽がいっぱい』は監督の代表作の1つになり、Alainは一躍世界的スターとして注目され、Ninoの音楽も大ヒットした。蓋を開けてみるまでは、分からないものです。


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先日の『危険がいっぱい』同様、コミカルなオープニング・ロールと音楽で始まるこの作品は、大どんでん返しのラストシーンで終わる。富も愛も太陽の輝きさえも手中に収めたTomが、Philippeのヨットの売買契約のために出向いたMargeを待ちながら、デッキチェアに身を沈めて、地中海の太陽の光を全身に浴びている。ああ、至福の瞬間。一方、陸上に引き上げられたヨット。それに続いて船尾のスクリューに絡みついた、1本のロープに引っ張られるようにして海中から現れる、黒くなったボロ帆布の塊を目にしたMarge…。このシーンは何回観ても背筋が凍りつく。


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別の意味でゾクゾクするシーンと言えば(Philippeの筆跡を真似て、サインの練習をするシーンなど沢山ある)、TomがPhilippeの服を着込みPhilippeの髪型にして、鏡に向かって自らの姿に口づけをしながら、Philippeの口調で話すシーン。そんなイタいTomよりも、一部始終を無言で後ろから見ているPhilippeに、淫猥なものを感じる。二人が全裸で抱き合うより想像をかき立てられて、遥かにエロティックだ。

もう1つ好きなゾクゾク・シーンは、Tomが偽の遺言状を書いている場面。Philippeになりすまして、さあ完全犯罪を実行!という、全身緊張のまさにその時、Philippeを訪ねて来たヤツがいる。そいつはPhilippeの友人Freddy(Billy Kearns)で、初対面のときから嫌な野郎だと思っていたから、思わずTomの右目がピクッと痙攣する。美しいAlainの顔はぞっとするほど強張り、そしてまたピクピクピクッと痙攣が走る。「こいつも消したる!」 Freddyを殺(や)ったあと、台所の隅っこでローストチキンを黙々と食べるTom。若き日のAlainの野卑でギラギラした美しさが炸裂しています。


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で、Margeなんですが、彼女って仏頂面したツンデレ(ツンツン?)女で、どこに魅力があるのか分かりません。Philippe好みの、お金持ちのお嬢さまだからかしら?マリンルックなど彼女が着ていた衣装は、どれもよく似合って素敵でした。当時Alainが付き合っていたRomy Schneiderが、真っ赤なドレスに黒い手袋をはめ、Freddyの友だちの1人として、ちらっと出て来る。


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作品の後半に出てくるRiccordi警部を演じたErno Crisa が、めっちゃ渋くてかっこいい。仲村トオルにちょっぴり似た、切れ長の涼しげな目に悩殺されました。ロケ地はイスキア島・プロチダ島・ナポリ・ローマ。BGMをバックにAlainが彷徨う魚市場が、ナポリで撮影されたと知り、昨年ナポリを旅して、猥雑ながら魅力満載の町を堪能しました。次はイスキア島とプロチダ島に行こう。


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# by amore_spacey | 2018-10-06 02:08 | Alain Delon | Comments(8)

危険がいっぱい (Les félins)

ネタバレあり!

私のお気に入り度 ★★★☆☆ (78点)

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【あらすじ】 いかさまカード師のMarc(Alain Delon)は、ギャングのボスの女房に手を出したばかりに、手下から命を狙われる身となるが、からくも逃げのびて救世軍施設に身を寄せた。慈善事業でそこを訪れたアメリカ未亡人Barbara(Lola Albright)といとこのMelinda(Jane Fonda)の目にとまり、Marcはお抱えの運転手として雇われ、Barbaraの屋敷に住むことになる。
  ところがこの屋敷には、秘密の部屋にBarbaraの愛人Vincent(André Oumansky)がいた。彼女がMarcを雇ったのも、実は殺人犯のVincentと逃亡するためのパスポートが目的だったのだ。(作品の詳細はこちら


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Alain とRené Clément 監督のコンビによる、小気味良いテンポで展開する、サスペンス色たっぷりの娯楽作品。登場人物のみんながどこか胡散臭く、しかし誰が主導権を握っているのか?どういう結末になるのか?予想がつかず、そして衝撃のラストを迎え、ええーっ、そういうオチなの?ビックリ仰天すると同時に、背中がすーっと寒くなるのです。コミカルに始まった作品がこんなにシュールなラストを迎えるなんて。


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小娘だと見くびっていたMelindaが、実はとんでもない伏兵だったのだ。可憐で純粋な彼女の(そんなフリをしていただけか)、Marcへの一途な思い、あれは命を懸けた女の執念ですね。当時27歳のJane Fondaが、本当に可憐で素敵でした。対照的に40歳のLola Albrightは、成熟した女性の魅力を惜しみなく見せてくれた。さて29歳のAlainは、どっちを選ぶ?いや、元々はまとまった金だけ貰って、トンズラするつもりだったベテランの詐欺師が、逆に小娘に嵌められてしまったという、ったく情けねェだけでは済まない、コワいお話でした。



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上空からHotel de Parisの入り口をとらえた、冒頭のシーンが印象的だ。若くて綺麗な女性2人(両手に花)を乗せたオープンカーで、Alainがホテルに颯爽と乗りつけ、いかにもチャラ男といった風情で、テニスラケットを縦に回しながら(Alainは持っているものを回しながら歩く癖があるのか?ワインボトルとか、よく回している)ホテルのロビーを歩いて行く。世界は自分中心に回っている、と信じて疑わない男の顔だ。

音楽や小物や衣装などもスタイリッシュで、使い方がうまい。特に猫や仔猫。それからBarbaraの屋敷のリムジン、この屋根が透明で、とってもお洒落。でも夏の直射日光が、意外に辛いのです(体験者は語る)
 

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# by amore_spacey | 2018-10-02 00:22 | Alain Delon | Comments(0)

コッホ先生と僕らの革命 (Der ganz große Traum) 

私のお気に入り度 ★★★☆☆ (78点)

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【あらすじ】 1874年、イギリス留学を終え、ドイツへと帰国したKonrad Koch(Daniel Brühl)。とある名門校へ英語教師として赴任した彼は、授業の一環としてサッカーを教える。サッカーを通して、子どもたちはフェアプレーとスポーツマンシップの精神を学び、それまで抱えていた階級や国籍に対する偏見が少しずつ薄れていった。しかし、帝国主義下にあったドイツでは反英感情が高まっており、イギリスで確立されたサッカーは反社会的なものの象徴であった。地元の有力者やほかの教師たちは、Kochを学校から追い出そうとする。(作品の詳細はこちら


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再びDaniel Brühl1人祭り。機内上映のプログラムにこの作品を見つけて、「やったァ!」と思ったら、吹き替えも字幕もなく、ドイツ語のみ。それでも諦めきれず根性で観始めたんだけど、朦朧とした頭にドイツ語が全く入ってこなくて断念した経緯があるので、今回はイタリア語吹き替えをじっくり堪能でき、溜飲が下がりました。時代背景を考えると、シリアス一辺倒になってもおかしくはないが、コミカルなシーンもほどよく織り込まれ、娯楽作品としてとても良く出来ていると思う。Danielの3枚目振りも、お茶目。


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体罰が横行するドイツの伝統的な教育に疑問を感じ、サッカーを通してフェアプレーやスポーツマンシップを、地道に根気よく教えていくKoch先生。みんながすぐには賛同しなくても、最後まで諦めない忍耐力やある種の頑固さを持ち合わせた先生。と言ったらもうDaniel Brühlが演じるしかないでしょう。生真面目で世渡りが下手なんだけど、自分が信じた道を突き進んでいく。

自分が先頭に立って突っ走って行く人ではなく、子どもたちの個性や能力をちゃんと見ながら、後ろ盾になってやる。いいね、いいねぇ。Koch先生の一生懸命さは、森田健作や松岡修造のように身も心も熱い。のではなく、見た目は冷静沈着だが、心の中では青い火がぼーぼーと燃えさかっているタイプなのだ。


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サッカーって、ただボールを蹴るだけじゃん。種目は違うがF1を観ながら、「ただ車がぐるぐる走ってるだけじゃん」って思いますもん。無知って最強だ。最初は団子のように固まってボールを追いかけているだけだった子どもたちも、ルールが分かってくるにつれて、自分のポジションを守ったり攻めたり、タイミングよくボールをパスしたりして、チームプレイというのを体得していく。大人と違って、子どもは柔軟ですから。


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サッカーによって、子どもたちの表情やクラスの雰囲気も、どんどん変わっていきます。地元の有力者の息子Felix(Theo Trebs)一派と、彼らにいじめられていた労働者階級のJoost(Adrian Moore)が、いざサッカーを始めてみたら、Joostのほうがずっと上手なことがわかったりして、サッカーをしている間だけこのクラスは、階級や貧富などの垣根が取っ払われる。ぽっちゃり太った靴屋の子Otto(Till Valentin Winter)は、クラスのムードメーカーで友だち思いで、サッカーへの熱意も人一倍あって、ついには職人や父親を巻き込んで、サッカーのボールを作らせてしまう。ラストシーンでOttoのお父さんたら、簡易スタンドでちゃっかりボールを売ってるんだから(笑)


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# by amore_spacey | 2018-09-29 15:41 | - Other film | Comments(2)

Bao

私のお気に入り度 ★★★☆☆ (77点)

【あらすじ】 息子が成長し家を離れて、空の巣症候群に陥った母親がいた。ある日手作りの中華まんじゅうを入れたせいろから、赤ちゃんのような泣き声が聞こえてくるではないか。恐る恐る中を見てみると、中華まんじゅうには顔があり、手と足も生えてきた。やがて愛らしい赤ちゃんの姿になり、彼女は母親として愛情を注いで育てていく。母の愛と中華まんじゅうの子どもの関係を描いた。(作品の詳細はこちら


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良質の短編作品に出会うと、幸せな気持ちになる。この作品はまず、出てくる料理がとても美味しそうなんです。生地をこねたり、薄く伸ばした生地に肉を詰めていく手の繊細な動きや、生地の柔らかさや触り心地は、感動的にリアルで、冒頭で胃袋を鷲づかみにされてしまった。人間になった中華まんが、ホントに可愛い。ジャックジャックに似ているが、柔らかい中華まんだけに、ちょっとした衝撃で頭がつぶれてしまう。

母親がかなり過保護じゃないかな?という場面もありましたが、彼女の気持ちも分かる。ただそれが思春期の子どもには、重くて邪魔で鬱陶しい。私が母を鬱陶しく思ったように、娘も私をそう思ったこと(思ってる?現在進行形?)が、多々あるはずで、母子の関係は難しい。


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で、まさかのシーン。あれは予想だにしていなかったから、受けた衝撃が半端なく、気持ちを激しく揺さぶられてしまいました。でもその後の展開が素晴らしかった。息子とは不釣合いなほど可愛い彼女が、未来の姑と一緒に手際よく中華まんじゅうを作る、その横で未来の舅(息子の父)は、「まずは一件落着か?よしよし」といった表情で、1人くるっと向きをかえてテレビを観ている。あははっ、あたしンちのみかんのお父さんみたい。ちょっぴりほろ苦いけれど、観終わったあと、じわーっと幸せな気持ちに包まれる作品でした。ああ、中華まんの季節だなぁ。


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# by amore_spacey | 2018-09-29 01:19 | - Short film | Comments(0)