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やさしい嘘 (Depuis qu'Otar est parti...)

私のお気に入り度 ★★★★☆ (83点)

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【あらすじ】 グルジアに暮らすEkaおばあちゃん(Esther Gorintin)の楽しみは、新しい生活を求めてパリへ旅立った息子Otarから届く便り。母Ekaの愛情が、弟Otarにだけ注がれていることに嫉妬する娘Marina(Nino Khomasuridze)。そして堪能なフランス語でOtar叔父の手紙を読み聞かせるのが日課となっている、おばあちゃんっ子の孫娘Ada(Dinara Drukarova)。女だけの3人家族の生活には、ちいさなトラブルはあるものの、平穏な幸せに包まれていた。そんなある日突然、Otarの訃報が届く。(作品の詳細はこちら


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3人でケーキを食べる冒頭のシーン、これがとても印象的だ。台詞はないのに、3人のぎこちない関係が手に取るように分かる。町の喫茶店内でEkaおばあちゃんが選んで持ってきたケーキを、不機嫌な表情をしたEkaの娘がちらっと見て、横から無造作にフォークでつつく。Ekaおばあちゃんは、「何すんの?これ、私のよ!」と言わんばかりに、不快な表情で娘を見据える。ムッとしたMarinaは、フォークを投げ捨てる。テーブルにぶつかるフォークの金属音。一部始終を目の端で見ている孫娘の顔には、「あ~あ、またやってる(苦笑)」 母と娘、祖母と孫娘の距離感や位置関係を、1分足らずのシーンの中で端的に描き出している。ここだけでも、繰り返し観たいくらいだ。


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作品の半ばである事件が起きるものの、歴史に翻弄されつつ生きる1つの家族の物語が、淡々と静かに展開していく。頻繁に起きる停電やそのたびに灯されるロウソク、髪を洗っている途中でシャワーが止まってしまう場面など、馴染みのないグルジアの暮らしの一端だけでなく、3世代が生きてきた社会的な背景のギャップを、分かりやすく描いている。スターリン体制が崩壊して、人々はより自由な社会を夢見ていたのに、現状はヘタすると前より酷い。自分たちが望んだ社会って、こんなもんだったの?という大きな失望や落胆。社会主義体制下で生きた祖母と母、そして自由主義的な教育を受けた孫娘の間に、祖国への思いがズレるのは当然だ。


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そんな社会の中で暮らす彼女たち。弟ばかり愛する母に素直になれない娘、ぎくしゃくした2人の間にいる孫娘と祖母との温かい関係。面と向かって言えない(言ってはいけない)、様々な思いを抱える3人が、Otarの死をきっかけに、互いの辛い心持ちを察するようになり、思いやろうとする気持ちが芽生えていく。その辺りは、『グッバイ・レーニン』に似ているが、本作品の素晴らしさは、その先に待っている予想外のどんでん返しだ。Ekaおばあちゃんのナイス・ショットに、「ばあちゃん、カッコイイ!」 激動の時代を生き抜いてきた彼女だから、ちょっとやそっとの事では動じない精神力や芯の強さがある。そんな彼女の、大地のように包み込む偽りのない家族愛に、娘や孫娘は逆に救われた。愛する孫娘が旅立つラスト・シーンには、悲しみの中にも希望の光がさして、目の奥が熱くなる。Adaやこの家族に、平穏な日々が訪れることを祈って止みません。


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by amore_spacey | 2018-07-10 01:49 | - Other film | Comments(0)